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「800字文学館」

ハチウオの刺身

斉藤 征雄

 最近、近くのスーパーの魚コーナーが、それまで一匹ものはイワシ、アジ、サンマなどに限られていたが、品数は多くないものの日替わりでいろいろな魚を並べるようになった。魚好きにはこれほどうれしいことはない。私はわが家の買い出し担当なのでスーパーにはほとんど毎日行くが、今日はどんな魚が並んでいるか、見るだけでも楽しみである。

 中ぶりのイナダが並ぶこともあるが、イナダは他の店にもあるから珍しくはない。それよりも、イサキやメバルの丁度よい型のものが出ているとつい買いたくなる。イサキは焼いてもよし、刺身も旨い。メバルは何といっても煮つけでしょう。
 ハナダイも時々並ぶが、あの桜色が何とも美しい。マダイもよいが、老夫婦二人には大抵大きすぎる。その点20~30㌢のハナダイは手頃である。刺身よりは、私は焼くのが好きだ。

 値段は一匹いくらで、わが家の食費の範囲に十分入る程度の安さである。そしてこの店は、客の求めに応じて魚を捌いてくれる。腸ヌキ、二枚下ろし、三枚下ろしなど、何でも愛想よく受けてくれるから気兼ねは入らない。また必ず「アラはどうしますか」と聞いてくれるのがうれしい。私は魚を自分で捌くのを趣味にしているが、この店で買うときは大抵捌いてもらうことにしている。

 先日この店で、見馴れぬ魚に出くわした。30~40㌢で色は赤黒く、細身でもなく中ほどの幅ひろ、うろこが大きく熱帯の魚を思わせる。ハチウオと表示されていた。聞くと刺身が旨いとのこと、早速三枚に下ろしてもらった。値段はタイの半値である。帰って調べると、正式にはブダイという名でスズキの仲間。知らなかったが、関東から九州までの太平洋沿岸で漁れる一般的な魚らしい。ハチウオは鹿児島あたりの呼び名ということ。
 皮をはいで刺身にして食べたが、少し赤味がかった白身は予想以上に脂がのっていて美味しかった。アラは潮汁にしたが、皮がピンクに変わりこれも旨かった。
 久しぶりの日本酒が引き立った。

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