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「800字文学館」

消毒液「アルパカ」

斉藤 征雄

 長年の不摂生がわざわいして、何年か前からいくつかのキソシッカンを抱えている。ウイルスに侵されたとき抵抗力がないそうだ。対策として運動が一番と言われて、何度か近くのジム通いを決意したが続いたためしがない。

 そこで最後の手段、酒を節することにした。外での飲み会はやめられないので、欠かさずやっていた晩酌を止めた。かれこれ三年になる。自分でも最初は続くかどうかと思ったが、二、三日後の飲み会で飲めると思えば何でもない。十年前にヘビースモーカー状態から禁煙したが、そのことに比べればたいした挑戦ではなかった。その他に止めた動機には、晩酌といっても日本酒か焼酎を一、二杯飲む程度なのに、カミさんから夕食がだらだらといつまでも片付かないと小言をいわれるのでそれを回避したかったせいもある。
 去年の実績から具体的数字を見てみよう。外での飲み会は例年と大きな変化はなく、年末から三月までが10日/月をこえるが夏場は減るから年間で約100日。その他に旅行でホテルや機内に泊まる日も概ね飲むので約30日、それらを除いた235日が飲まなかった日となる。

 実に、年間三分の二が休肝日であった。その結果、キソシッカンには特段の改善はなく薬を飲み続けているものの、唯一肝機能だけは見違えるように改善した。ガンマGTP、GOT、GPTなど長年にわたって高位安定を続けてきたが、今や恥ずかしくも青年の肝臓のようにきれいな数値になったのである。もっとも人間ドックでは依然として脂肪肝が指摘されてはいるが……。

 それがここにきて新型コロナウイルスのために、生活環境が激変した。自粛、自粛の結果、休肝日が異常に増えすぎたのだ。三月以降の飲み会はほとんどキャンセルになってしまった。旅行にも行けない。これでは節酒どころか断酒状態である。急激な環境の変化は身体に良くないというから、やむをえずときどき「アルパカ」を買ってきて消毒がてら身体にしみこませている始末である。

(注)アルパカ:チリワインの銘柄の一種、安い割にはまずくはない。

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