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「800字文学館」

食材の氏素性 ~搾菜~

三 春

 このところ搾菜にはまっている。業務用食材店で買うと大きな塊がいくつも入っているから1個だけ塩抜きして残りは冷凍する。たとえ1個でも両の手の握りこぶしを合わせたほど大きいので、しばらくは搾菜料理が続くのだが、コブだらけの異様な姿を見る度に、この正体は何だろうと、氏素性を確かめたくてたまらなくなった。
 物の本に寄れば、1900年頃に四川省のある農民が自家用に作っていた漬物を友人に贈ったところ大変喜ばれたので製造販売するようになって大儲けした。それを見た人々が製法を盗んで我も我もと作り始め、1930年頃から本格的に流通するようになったというから、齢たかだか78才、漬物としてはまだまだ若輩者である。芋と見紛う形だが実はカラシ菜の変種で、我々が食べているのは異常に肥大した茎だそうだ。これを塩漬けにしてから搾った後に、塩・山椒・唐辛子・酒などの香辛料と共に甕に詰める。その名の由来は、塩水を搾る、或いは搾るようにして甕に押し込むところから来ているらしい。
 つくば市には、栽培から始めて製造販売しているところがあって、聘珍樓などに出荷しているそうだ。葉を切り離さずに一緒に漬け込んだものも売られているので、その全姿からなるほどカラシ菜だわいと納得できる。
 搾菜と私との出会いは「桃屋」のCMだが、調味済みの薄切りからその全貌を想像することもなく、好物でもなかった。搾菜の奥深さに触れたのは、沖縄のホテル「ザ・ブセナテラス」の朝粥で、自分でも作ってみようと初めて原形を買い求め、あの珍妙な姿にのけぞったのである。
 さて今度はどんな料理をつくろうか。定番は「搾菜と豚肉の炒め物」や「中華粥」だが、ちょっと目先を変えて「搾菜とトマトのサラダ」・「搾菜と豆腐のスープ」・「搾菜と納豆のスパゲティ」にも心惹かれる。簡単な料理でも搾菜が入るだけで香りと旨味が深まり、食欲も増す。もっとも、私のような食いしん坊には食欲増進の工夫など不要だが。

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