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「800字文学館」

未知のウィルスの恐怖 『復活の日』小松左京

志村 良知

 新型コロナウィルスに関する報道に接していると、小松左京が1964年に発表した『復活の日』を思い出す。
『復活の日』の主役は宇宙空間で採取されたウィルスである。これを入手した某国は、生物兵器への応用研究を進め、その過程で生存力・増殖力と毒性が極限まで高められたMM-88を生んでしまう。物語はこれが盗まれ、運ばれる途中で航空機事故により山中にばらまかれるところから始まる。
 雪解けと共に、山麓の家畜や人間に奇妙な病気が流行り始める。風邪かと思っていると突然心臓発作で死ぬのだ。そしてそれは町に伝播していく。

 普通のウィルスは本体を形成するタンパク質とそれを伝える遺伝子とからなる。しかし、MM-88は遺伝子そのものだけからなり、宿主ウィルスの遺伝子に組み込まれて宿主とともに増える「増殖する核酸」だった。
 寄生されたウィルスの症状は数億倍の増殖力で、宿主ごと脊椎動物に入り込むとMM-88は神経細胞中で宿主を溶かしで単独になり、核に割り込んで機能阻害し、全身麻痺と心臓発作を起こす。インフルエンザウィルスに取りついてMM-88は世界中に広まっていく。

 ある日、ラッシュアワーの電車がスカスカになっており、交通渋滞も無くなっているのに気付く。極限状態の防疫・医療体制はやがて医師やスタッフの過労と感染で限界を迎えて崩壊する。各国のウィルス研究陣は悪魔の尻尾を捕まえるがそこで力尽きる。道端の行き倒れの死体が放置されるようになる。治安維持と死体処理のため軍隊が投入されるが、集団生活をする軍隊は感染症に弱くすぐ全滅。都会だけでなく隔離された離島やへき地も感染した鳥や野生動物と接触して終り。各国政府も消滅、人類は半年あまりで滅亡してしまう。
 この状況下で生き残ったのは南極越冬隊員とミサイル原潜の乗組員のみ。『復活の日』は、ここから本題である人類の復活への道の物語になる。

 流行のフェーズがパンデミック期にならないことを祈るばかりである。

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