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「800字文学館」

ファラデーの「ろうそくの科学」

志村 良知

 2016年のノーベル生理医学賞、大隅良典博士受賞の時に話題になり、19年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰博士も少年時代に読んで感銘を受けたという「ろうそくの科学」を読み返した。
 英国の科学者マイケル・ファラデーが、1860年のクリスマス・レクチャーとして王立研究所で連続6回講演した内容を、同じく英国の科学者クルックスが編集したもので、当時の一般的な照明器具であるキャンドル(ろうそく)の炎を狂言回しにして、1860年当時の最新の科学を青少年に易しく語るという内容である。

 ファラデーはまず、ろうそくの構造、なぜ燃えるのか、何が燃えているのか、なぜ炎はろうそくの芯の先端に留まっているのか、から物語を始める。
 講演は巧みな例え話と、主にテーブル上で自らが、時に助手を使ってかなり大仕掛けの実験を繰り返し、何故そうなのか、そうなるのかを解明しながら進められていく。やがて話はろうそくの炎の形、その内部構造に及び、燃焼の主役、酸素が登場し、驚くことに話はろうそくの元素分析に至り、何段もの実験プロセスを経て、ろうそくは水素と炭素からできていることを示す。
 実験は緻密に構成されており記述は詳細で、科学が好きな子供たちが読んだら何が起きているのか興味をそそられ、自分でもやってみたくなるに違いない。中には危険を伴う実験もあり、ファラデーはそうした実験の事故防止の説明も丁寧にしている。
 最終章は、生命の営みと炭素、水素の関係についてである。生き物も炭素と水素を酸素と化合させてエネルギーを得、水と二酸化炭素を排出していること、しかし、生物の呼吸と物質の燃焼は全く同じではないことが語られる。最後にろうそくの火の美を讃え、聴衆の青少年にろうそくの火に例えられる人になれという言葉を贈り、長い講演は終わる。

 残念なことに、私がこの本を読んだのは少年時代ではなく大人になってからだった。小学生の頃この本も与えてくれていたら……、と親を怨んでみる。

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