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「800字文学館」

雪と「かるた」

野瀬 隆平

 小学生の頃、札幌に住んでいた。もう70年も前の話である。お正月が近づくころには既に根雪になっていることが多かった。当時は、雪かきといっても、家の出入り口の周りの雪をどけるだけで、道路上の雪を全て脇に積み、路面の土が現れるような事はしない。従って、道路の上をスキーで移動することが出来た。
 学校から帰って来て、家の前でスキーを履き、そのまま数十分で山の斜面までストックでこいで行けた。畑も一面雪に覆われているので、道路との区別がつかない。畑を斜めに横切って山までの最短距離を狙ってコースを自在に選ぶことが出来る。薄暗くなるまで楽しんだあと、最後は丘の一番上まで、リフトなどない斜面を横向きになって登り、直滑降で滑り降りる。そのままこがずに、何処まで家に近づけるか。その時々の雪の質などによって違った。

 雪に囲まれたなか、子供たちはお正月が来るのをワクワクしながら待っていた。冬休みの宿題を終えれば、あとは遊ぶだけ。普段は一緒に遊ぶ機会が少ない家族全員と遊べるのが嬉しい。 想い出に残っているのは、家族でカルタ取りをしたことである。
 カルタと云っても、「いろはがるた」ではなく、百人一首である。子供には難しいと思われるかも知れないが、実は、下の句だけを読んで札をとるのである。しかもその札は、句が紙に平仮名で印刷されたものではない。数ミリの厚さの木の札に、崩し字の漢字で歌が書かれているのだ。
 その崩し字がかなり特徴的で変わっている。子供はそれを文字としてではなく、画像ととらえて覚えているので、絵札をとるのと同じである。こうなると大人たちと対等に競える。いや、大人よりすばしこく早く手を伸ばし押さえることが出来る。大人たちに勝って嬉しかったのを憶えている。
 齢を重ねた今日、正月が待ちどおしいという気持ちはあまり無い。ただ、昼間から誰に気兼ねすること無く、のんびりとお酒が飲めるのはよい。幼いころの想い出にふけりながら。

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