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「800字文学館」

友達の友達は友達だ

吉田 真人

 これは美しい言葉だ。でも、何処かで線を引いて区切って欲しい、というのは過去楽しくない経験をしたことがあるからだ。何れも二十数年前、アラブ世界での出来事である。

 サウジアラビアの空港での入国審査は何時も長蛇の列、なかなか前に進まない。一時間以上懸かるのは当たり前だ。
 審査を入念にやっていると言う理由もあるが、列の前に続々と横入りしてくるのだ。審査官は、これを全く咎めない。どころか、遠くの人を招き寄せ、先に審査をする。先ず握手、そして形式的な審査、又握手。彼らは審査官の友達なのだ。なんでそんなに友達が多いのか。友達の友達は友達だから。友達を大事にする、これはアラブ世界の鉄則である。
 審査官の友達でない我々は、黙って待つしかない。あっ、又、次の便が到着した、審査官の友達を沢山載せて。

 アルジェリアで国内便(アルジェ→コンスタンチーヌ)に乗った。百人乗り程度の小さい飛行機で、搭乗ゲートから100㍍程の所に駐機している。自由席であった。
 幸い次のアドバイスを得ていた。“空港に着いて、航空券チケットを搭乗券に換えたら、直ちに搭乗ゲートに行き、ゲートの最前列で開くのを待て。係がドアを開けたら、飛行機まで走れ。奥の座席に坐り、シートベルトを締め、飛行機が動き出すまで眠ったふりをしろ”
 係が搭乗ゲートに現われる頃には、ゲート前は満員電車並の混雑。ゲートが開くと皆一斉に走り出す。幸い大きな荷物もなく、まだ若かったこともあり、タラップを昇り、奥の席に坐る。後から着いた客が、そこは私の席だと喚く。一頻り阿鼻叫喚が続き、席を得られなかった人たちは、憮然として空港ビルへ戻って行く。
 何でこんなことが起きるのか。チケット発行時には枚数を管理しているが、搭乗券発券カウンターの係が、チケットなしの友達に券を増発し、又、搭乗ゲートの係も同じように増発したのだ。
 気の毒なのは、早く走れない人達だ。次便を待つしかなく、又、次便に乗れる保証もない。

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