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「800字文学館」

「チェックポイント・チャーリー」

吉田 真人

 この11月9日は、ベルリンの壁崩壊30周年であった。

 東西ベルリン間で、外国人が利用出来る唯一の検問所であった 「チェックポイント・チャーリー」 を、崩壊の約5年前に往還した。ジョン・ル・カレの『寒い国から来たスパイ』にも出て来る所である。

 往復共に単独行。往きは午後遅くに通過、他に先客がちらほら。銃を構えた兵士が警戒する中で、多少時間は掛ったものの無事入国が許可された。

 東独公社の化学プラント新設計画に、日本のM社と英国のDエンジ会社のコンソーシアムが応札し、そのプレゼンテーションに参加するための訪問であった。
 プレゼン終了後、一足早く帰る小生のため、ホテルで打ち上げをした。メニューにあった “アイリッシュコーヒー”を全員が注文。運ばれてきたカップに口を付けた途端に、各人とも??と顔を見合わせた。砂糖の代わりに塩が入っている。砂糖が不足して使えなかったのか、それとも飲んだこともないシェフが作ったのか。レシピを教えて作り直しさせた。
 後日、このコンペは競合の米国U社が落札したので、当方敗着の予兆だったのか。

 夜8時過ぎ、ホテルからタクシーで検問所へ。西独マルクで代金を払うと、運転手が記念にと東独マルクのコインをくれた。これで1マルクかと思うようなアルミ製。日本の1円硬貨と同じ。東独の窮状が覗われた。
 検問所には係官と数人の兵士以外全く人影なし。完璧な静寂の中で出国審査を受ける。兵士は、何か問題があれば即刻発砲するぞ、と言う態勢で銃口をこちらに向けている。気まぐれに発砲されても、遺体は壁の間に捨て置かれ、何事もなかった事にされるのだろう、と想像するのも怖い!

 無事西ベルリンに入境。タクシーを捕まえ飛行場に急ぐ。途次にある荒廃した旧日本大使館跡で、超ミニスカートのお姉さん達が手を振ってくれた。無事の帰還を祝ってくれているかのように。
 尚、日本大使館は1998年にボンから再びこの場所に戻った。勿論、もうお姉さん達はいない。

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