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「800字文学館」

『バスキア展』は面白い

塚田 實

 11月初め六本木ヒルズ森アーツセンターギャラリーで開催中の『バスキア展』を観に行った。ZOZOの前澤前社長が123億円で買った絵が展示されているという記事を見て、散歩を兼ねて出かけた。ギャラリーには長い行列ができていた。

 ジャン=ミシェル・バスキアは1960年ニューヨーク市ブルックリンで生まれた。ブルックリンは、今でこそ再開発され綺麗な街になっているが、当時は荒れた街だった。
 バスキアの父親はハイチ系移民で母親はプエルトリコ系移民。若くして壁にスプレーなどを使って絵を描く、所謂グラフィティアーティストとして評価されるようになった。17歳からわずか10年の活動期間に3千点のドローイングと千点以上の絵画を残し、1988年27歳の若さで、麻薬の過剰摂取により早逝した。有名になってからはアンディ・ウォーホルとの共同制作もしたという。
 この展覧会には約130点の絵画や、オブジェ、ドローイングが展示されていた。作品はいずれも自由な発想に基づいた構図で、モチーフの持つ勢いをそのままぶつけたような表現が胸に迫る。大きな画面に人間の顔や様々な文字が描かれており、じっと見ているとついつい絵の世界に引き込まれる。
 展示には「YEN」や「¥」など日本に関係する表現もあちこち見られる。エズラ・ボーゲルの書いた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」がもてはやされていた頃の影響がまだ残っていたのだろう。日本には80年代初め、バブル経済に向かう頃何回か来たらしい。当時から日本でも既に人気があったのだろう。個展も6回、グループ展も9回開かれたらしいが、私はバスキアを知らなかった。
 前澤氏が購入した《Untitled》という作品は、斜めを向いた大きな顔がどんと真ん中に居座っている。口を大きく開け、ぎょろっと何かを睨んでいる。

 ギャラリーを出ると、80年代ブルックリンの世界から、ヒルズ族が闊歩する現代社会に引き戻された。

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