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「800字文学館」

我が家のお墓事情

大津 隆文

 私は名古屋出身で我が家のお墓も名古屋にある。長男故に一年に二回ほどは墓参りに出かけているが、最近は段々しんどくなってきた。残念ながら家族や親族で墓参りをしてくれそうな人はいない。今後のことを考えると結局東京に移すしかないと思った。
 しかし、従来型のお墓は費用も高そうだし、息子は結婚の見込みがなさそうなので新しいお墓の将来も心許ない。そこで維持管理の簡単ないわゆる室内墓にすることにし、この六月交通便利な候補地三カ所を見学、その中で雰囲気の良かった「新宿御苑前聖陵」に決めた。
 ここは六階建てのビルで、四千軒分の厨子(納骨用ロッカー)が用意されている。二千軒毎に六カ所の参拝ブースがあり、空いているブースに行きカードをかざすと約一分で自家の厨子が運ばれてきて墓石にセットされる。厨子に収納できるのは東京式の大きな骨壺では二個だが、骨壺を小さくしたり骨袋を利用すればもっと多くが可能なようだ。ちなみに永代使用料は九十万円、年会費は一万五千円である。

 私の決断を待っていたわけではなかろうが七月に母が百二歳で亡くなり、早速四十九日法要、納骨をさせてもらった。またその後も何回かお参りに行っているが、管理事務所のスタッフの対応も親切で、現在のところ利用者としての満足度は極めて高い。
 簡単便利でこれまでの墓参りのように墓石を洗ったりお花や線香を持参して供える必要は一切ないので、伝統的風情には少々欠けるのが難と言えば難だろうか。
 家内はかねて「自分は名古屋のお墓に一緒に入るつもりはないので散骨にしてほしい」と言っていたが(その理由は怖くて尋ねていない)、「ここだったら私も入っていい」と変わったのもうれしいことだ。
 残っているのは名古屋のお墓の処分だ。お墓を作ってくれた石屋さんにお願いしたら「最近は墓終いの仕事が多くてつらい。一生懸命作ったお墓を取り壊す身にもなってください」とぼやかれてしまった。
 古里がまた一段と遠くなりそうだ。

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