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「800字文学館」

草津音楽祭2019
(第40回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル)

川口 ひろ子

 年頭から足の不調に苦しんだが何とか持ち直し,夏には例年通り草津音楽祭に参加することが出来た。
 8月後半の2週間草津温泉で開催されるこの音楽祭は2部構成となっている。午前はウィーンやイタリアから来日した音楽家が日本各地から参集した若者を指導する講習会(アカデミー)、午後からは先生方の腕の程を披露する演奏会(フェスティヴァル)だ。

 8月28日の「シューベルトの室内楽」と題する公演を聴いた。
 演奏されたのは「木管の為のメヌエット」他2曲で、中でも大変充実していたのは「八重奏曲作品166」。コントラバス奏者を中心にヴァイオリン、チェロなどの弦楽器とファゴットなどの管楽器奏者8人が並ぶ。ヴァイオリンのマックス・ヴォルフ先生が全身を楽器に仕立てたような熱気溢れる演奏でメンバーをリードしていた。中でも素晴らしかったのはこれに応える四戸世紀教授のひょうきんなクラリネットだ。機嫌よく何を話しているのであろう。名人達の呼吸がぴったりと合って盛大なフィナーレとなる。
 「菩提樹」「野ばら」他歌曲の名曲で子供の頃から馴染んでいるシューベルトであるが、室内楽の演奏会は初めてだ。かなりマニアックなプログラムを果たして素直に受け入れられるか心配したが「この優雅さはウィーンならではの響き、40歳年上のモーツァルトにそっくり」などと、すんなりと楽しむことが出来た。生演奏の圧倒的な説得力のなせる業か?
 取り澄ました都心のコンサートと草津のそれとの決定的な違いは先生方の気合だ。午前中の厳しい授業と午後の模範演奏、この流れがそうさせるのであろう。要所々々で「ここはこう表現するんだ!」とばかりピシッと決めてくれるのがすっきりとして気持ち良い。

 コンサートの後に浴びる温泉はもう一つの楽しみだ。勢いよく湧き出す草津の湯、微かな硫黄の香りに包まれていると全身のこわばりがほぐれて行くのが解る。二つの喜び、私の夏のけじめはこれでついた。

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