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「800字文学館」

アクセルとブレーキ

野瀬 隆平

 アクセルとブレーキを踏み間違えると、大変なことになる。
 高齢者のドライバーが車を運転していて、ペダルの踏み間違いで大きな事故を起こし社会問題となっている。
 しかし、ここで取り上げるアクセルとブレーキは、自動車のペダルのことではない。日本の採るべき経済政策のことである。

 20年もの長いあいだデフレ基調が続いてきた国は、世界を見渡しても日本しかない。色々と理由が考えられるけれど、やはり個人消費が伸びなかったことが最大の要因であろう。
 現状を打破するため個人消費を促すべきなのに、消費税の税率を10%にあげて消費を抑える政策が、あと数日で断行されようとしている。アクセルを踏み込むべきところ、真逆の機能を持つブレーキ・ペダルを踏むのである。
 財政赤字を解消することにとらわれ過ぎて、緊縮財政の策をとり消費税を増税したらどうなるか。意図とは逆に経済の停滞を招き益々財政赤字を増やすことになる。

 現在の経済状況のもとで、ある程度の資産があり年金の支給を受けている高齢者はあまり痛痒を感じていないかも知れないが、若い現役世代の人たちは、将来への明るい展望が持てず、つましい生活を余儀なくされている。欲しいものが無いから消費しないのだという論者もいるが、端からあきらめていているのである。その結果ますます少子化が進み根本的な問題の解決を遠退けている。
 若年世代の自民党支持率が高いという。保守化しているのではなく、自分の将来を直接左右する経済こそ最大の関心事なのだ。対抗する野党が独自のマクロ経済理論を持たず、まともな政策を打ち出せないのが問題なのである。

 何故、日本だけがデフレで悩んでいるのか。経済政策が間違っているとしか思えないが、それを長い間許してきた国民にも要因があるのかも知れない。
 倹約をむねとし小さく纏めることの好きな「縮み志向」の日本人の気質が、そうさせているのか。あるいは、経済大国を目指してきた反動なのだろうか。

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