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「800字文学館」

暗黒エネルギーとサットヴァ・カルマン

斉藤 征雄

 現代の宇宙論では、いわゆる物質が宇宙の質量とエネルギーに占める割合は4%に過ぎないらしい。つまり宇宙は、目に見える物質が主体で成り立っているのではなく、96%は目に見えない何物かが構成しているという。
 それは暗黒物質と暗黒エネルギーといわれる。暗黒物質は未知の素粒子と予測されているが、暗黒エネルギーの正体はいまだ不明であるらしい。確かなことは、宇宙はビッグバン以来膨張の速度を加速しているが、それに力を及ぼしているのが暗黒エネルギーであるといわれる。
 何もない広大な宇宙空間に目には見えない暗黒エネルギーなるものが遍満し、これが宇宙の主成分を成して宇宙を動かしているということのようである。

 仏教では、この世界(宇宙)を次のように説明する。
 無限に広がる暗黒の空間にあるときわずかな風がおこって「生命のもと(サットヴァ・カルマン)」が働きだす。それは次第に形を成して大気の層となり激しい雨をもたらしやがて水の層を形成、その一部が固まって大地ができる。
 大地の中心には須弥山という山がそびえ、それを外輪山が取り囲む。その中に海があり大陸がある。空中には太陽と月が廻り、須弥山の山頂付近には天界が、そして地下には地獄ができる。
 こうした自然界の中に生物が発生する。生物は生死を繰り返し、地獄、餓鬼、阿修羅、畜生、人間、天界を輪廻する。死後何に生まれ変わるかは前世の行い(業)によって決まる。

 世界は一定期間持続した後は破滅の過程に入る。生物は次第に消滅して最後は灼熱の太陽が山野を焼き尽くし、サットヴァ・カルマンは宇宙のどこかに去って世界は再び無限の空無に戻る。その周期は十二億八千万年ほどという。
 このような世界は宇宙を構成する一つの単位にすぎず小世界という。小世界が千個集まって小千世界、それが千個集まって中千世界、それが千個集まって三千大千世界、すなわち十億個の小世界が宇宙を成す。
 現代宇宙論に何かしら似ていることに驚く。

【参考】「般若心経と自然科学」(エッセイコラム掲載)松浦俊博

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