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「800字文学館」

訪問者

内藤 真理子

 近頃心待ちにしている訪問者がいる。それはヤモリ。
 夕食の後片付けをしていると毎晩やって来てシンクの上側のちょうど目の位置にあるガラス窓に五本の指を吸い付かせ縦横無尽に動き回る。頭部は丸みを帯びた三角でしっぽが長く、トカゲにもサメにも似ている。ガラス越しで危険がないのでとても可愛い。方向を変えようと、頭部を浮かせてしっぽをぐにゅっと曲げたりすると、えも言えぬ愛らしさだ。
 過去にはとんでもない訪問者もいた。それはスズメバチで巣を作った歴史が三回ある。一度目は私が嫁に来ることが決まった時で、勝手口の庇に大きな巣が出来たそうだ。当時はまだ御用聞きが戸別に回っていた時代で、姑は「押し売り除けにちょうどいいのよ」と言っていた。二度目は、弟の結婚が決まった時に南側の庇にできていた。
いずれもおめでたい時にできたので、夫の両親はスズメバチの訪問を我が家にとって瑞兆だと言っていた。
 三度目は五年くらい前、もみじの剪定をしている時にスズメバチが一二ひき飛んでいたので警戒していたらそこに大きな巣があった。驚いたが、そのままそっと近寄らないで眺めていて、もうスズメバチが出入りしないのを確かめてから殺虫剤を振りまき、巣を壊さないように切り離して人形ケースに収めた。我が家にとっては瑞兆だという両親の言葉を信じて、ひたすら果報を待っている。
 最近、招いてもいないのに現れた訪問者がいた。見た目は生まれたての毛虫だが、チャドクガという名前だそうだ。
 椿の葉っぱの裏側に細長くびっしりと几帳面に列をなしている。
「わっ、居た!」と古新聞を用意して火を熾し、その毛虫の並んでいる枝ごと火にくべるのだが、切っても切っても限りなくいる。あまりの数に急いで運ぶ途中、糸を引きながら列を崩して垂れ下がるものが続出。
 長そでに軍手までしている私なのに、どこから入ったのか、手の甲、腕、足、首からなぜかお腹迄かぶれて腫れあがってしまった。
 迷惑な訪問者だ!

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