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「800字文学館」

英国流

安藤 晃二

 先月の報道によると、日本の重電機メーカーH社がロンドン、スコットランド間の運行用に、英国内で組み立てた最新鋭鉄道車両の納入に成功した。メタルカラーの流線形で、最高速度は200kという。その昔70年代の英国のインターステート(英国の長距離列車)を知る者は、日本の技術による夢の電車の実現は誇らしい。当時の列車も速度は新幹線並み、伝統の黄と深緑の電車色、「カラカラ」と模型の様な音で生垣の織り成す牧場をぶっ飛んだものだ。
 新型車の映像を見て、ジワリと懐かしい。四人掛け席の真ん中にテーブルが固定された当時のままのデザイン、物を食べる、読む、書く、英国人の便利がそこにある。

 70年代、ロンドンのユーストン駅からグラスゴーへ夜汽車で出張した。四人掛け席に独りで座る。現れた残りの三人は、直ぐ上着を脱ぎ賑やかな会話、彼等は明らかに出張中の同僚のビジネスマンだ。こちらは微笑んで「ハロー」とだけ。英国人も会釈が巧い。あとは無表情を決め込む。しかし、聞こえる会話の内容から、彼らの職業は私と同業の鉄鋼営業らしい。思わずクスリとする。はたと話が止む。成り行きから「皆さんご出張ですか」、と水を向けると堰が切れた。想像通り、彼等はBSC(英国鉄鋼公社)の薄板営業マンであり、こちらも実はBSCグラスゴーと北海油田関係の協力事業で打ち合わせの為出張中と明かす。一斉に起立して握手をし、「何たる奇遇」とばかり、その後彼等が降りたヨークまでの二時間半、この友人兼競争相手同士、打ち解けて喋り通した。

 ロンドンで引っ越しをした。荷物が着くと子供達が集まる。子供を看る体で、それとなく母親の姿。一言、この辺に良い肉屋がないか、訊いてみる。その十倍もの懇切なお手伝いが返って来た。英国人は決してお節介はしないが、機会を狙って親切を爆発させる、その心遣いは絶妙である。隣家のご主人曰く「通りの向かいのあのオヤジね、毎日手を振るけど二十年間一言も話したことないんだ」

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