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「800字文学館」

老眼に【Kindle】を

池田 隆

 「八十歳の誕生日祝いはハズキルーペにしましょうか」と妻が言う。最近とみに視力が落ち、手持ちの老眼鏡をかけても文庫本が読み辛い。「これでは駄目だ!」と叫んだせいか。テレビのCMで美女のお尻に見惚れていたのを横から見られたか。
 デパートの眼鏡売り場まで出掛け、試しに掛けてみた。見え方は今までの物と変わらない。格好良さが売りなのだろう。今の私には不似合いな代物だった。
 この二十年間は船旅、毎秋一週間の京都滞在、水泳やサイクリング、山小屋での大工仕事や料理作り、街道歩きに都心探訪、エッセイ執筆とフォト句、等々、多彩に楽しんできた。しかしこれらの趣味道楽の多くが寄る年波で身体的に苦しくなっている。
 さてさて平均余命がまだ八年も残っている。どう過ごそうか。読むことと書くことぐらいしか思いつかない。だが長時間の読書は老眼で無理。書くエッセイも昔の思い出話ばかりでは気が滅入る。自由な出歩きが無理だと、新しい着想や知識を本などから仕入れる要がある。それが難しい、困った!

 うん待てよ、書く動作はPCを使い、フォントサイズを大きくすれば不自由ではない。読む方も電子書籍主体にしたら? 本は紙製でなければとの固定観念を捨ててみよう。
 無料電子書籍「青空文庫」をダウンロードして読んでみる。具合が良い。さっそく電子書籍リーダー(Kindle)を購入して使い始めた。文庫判の大きさで厚みは8mmほどである。書斎ではPC、それ以外の所ではKindleと使い分ける。電子書籍化されている書籍が意外に多く、廉価なのも嬉しい。有名な古典は殆どが只である。
 読み易いせいだろう、読書スピードが倍加し、この半年間に三十余冊の文芸本を読破した。それらの本の置き場にも困らず、図書館通いも減った。数十冊の書籍が詰まった薄い文庫判をいつも楽しげに持ち歩いている。
 GAFAにはまたまた貢献することになるが、この先はお蔭で退屈せずに過ごせそうである。たとえ椅子に置き忘れ、上に腰かけてもOKだし。

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