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「800字文学館」

体操の思い出

内藤 真理子

 毎朝ラジオ体操をしている。もう一年位続いている。これまでも何年間か続けたり、何年もやらなかったりして来たが、ラジオ体操に合わせて早起きをすると一日が長く使えるので得をした気分になる。
 とはいっても長い時間を有効活用しているわけではない。ただぼんやりと過す時間が長くなったような気がする。
 そう言えば、中学の時、私の通っていた公立の学校では、朝礼の後、一斉に校庭でラジオ体操をしていたことを思い出した。私は体操部だったのだが、女子は二名しかいなくて、なぜかその二名が交代で朝礼台の上で体操をすることになっていた。自分の番の日は朝礼の前に体育用具の倉庫で体操着に着替えるのだが、薄暗く埃っぽいところに一人で入るのが恐かった。
 だが、朝礼台に上がり、皆の前で体操をするのはけっこう好きだったかもしれない。今考えると恥ずかしい。テレビでラジオ体操をしている人を見ると、動きの切れが良くて美しい。私のだらしのない動きとは何と違うことか。
 高校でも体操部に入った。
 当時、高校には教育大学から体育の教生が来ていて、放課後のクラブ活動まで指導してくれた。その上、幡ヶ谷にあった教育大・体育学部の体育館で練習もさせてくれる。
 そこでは、1964年の東京オリンピックを控えて、選手たちが練習をしていた。「あれが小野喬よ、向こうにいるのが小野清子よ」と、選手を見つけてはコソコソ教えあい、練習どころではなかったが、あの体育館で、オリンピック選手のすぐ近くで同じ空気を吸っていたことは貴重な思い出だ。
 その後、私は段違い平行棒の離れ業が出来なくて体操部をやめてしまった。
あの頃ですら、辞めたいと思うほど難しかったのに、現在の体操競技を見ているととても人間業とは思えない。12メートル四方の床の上で目にもとまらぬ速さで、飛んで回ってひねって着地して、ターンをして宙返り、床を蹴ってさらに高く飛び跳ねて……。
時間はたっぷりあるのだから、テレビで観よう。

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