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「800字文学館」

八時集合・十分後散会

中村 晃也

 帰宅したのは午前九時半。この文章を書き始めたのは四月十日午前十時である。朝は五時半に起床。外は小雨だが午後から寒くなるという予報なので、トックリ型セーターの下に厚手のシャツを着て、厚手のウール地のズボン下を履いた。ラクダの股引に代わって、今では断熱性の良い静電気の発生しない良質の肌着がある。
 今日は町内の信用金庫主催のゴルフコンペが日本カントリーであるのだ。埼玉中央部のこの地では、天気さえ良ければ満開の桜の下で絶好のゴルフを楽しめたはずである。
 新宿の家を出るときの外気温は六度。高速道路に入る頃には雨は大粒になり気温が下がってきた。寒いとプレイ中に筋肉が硬直し手足が吊る可能性がある。
 口には出さないがこんな日にゴルフなんぞはやりたくない気分である。

 集合時間(八時)の十分前にゴルフ場に到着。参加者は全員チェックインしないで二階の食堂でコーヒーを飲んで待っていてくれた。
「お早うございます」とあいさつした途端、幹事から「中村さん、どうします?」と尋ねられた。
「現在ここの外気温は二度で、お昼にはさらに下がる見込みです。雨は霙に変わりつつあるし、年輩の方の多いコンペは危険だとの意見もあって、最年長の中村さんの判断を伺おうと思って」
「折角早起きして集まったんだから…」と言いかけて皆の表情を伺ったが、心配そうな顔々が多いので素早く決断した。
「コンペ自体は中止にしてゴルフをやりたい人は自由にプレイすることにしたら? 用意していただいた賞品を無駄にしては悪いから参加賞だけは頂戴することにしましょう。」皆ほっとした顔つきで賛同した。
「それでは集合時間八時の本日のコンペは八時十分に散会します」と幹事。

 ゴルフが中止になったので、翌日(十一日)は欠席しようと思っていた「何でも書こう会」に出ることにして慌ててこの原稿を書き上げた。
 正午現在、当家の室内温度は十七度。そろそろ蒸れてきたので股引を脱いで昼食にしよう。

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