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「800字文学館」

私達は地球人だ

大津 隆文

 海外で暮らしていた時、自然と自分は日本人ということを意識し、また、日本人に会うとただそれだけで親近感を抱いた。東京へ戻ると日本人という意識は薄れたが、知り合った人がたまたま同郷であったりするとやはりそれだけで親しみを抱く。不思議な気がした。
 人には自分と同じ集団、組織に対する一体感があり、それは他の集団、組織との関係が意識されるほど強まるようだ。例えば、日本という意識は幕末から維新にかけて醸成されたが、これは当時「尊王攘夷」が叫ばれたように鎖国を揺るがす外国との緊張関係が生じたからだ。同時に天皇という共通の価値観があったため徳川三百年の藩意識を乗り越えることが出来たと思う。
 世界には紛争が絶えない。大きな紛争は国家、民族、宗教等の集団対集団のものである。夢物語かもしれないが、こうした集団意識を乗り越える方法はないのだろうか。つまり、これらの集団を包摂するより大きく強い集団意識を作れないだろうか。
 この点、EUは一つの回答であり欧州の大きな挑戦である。二つの大戦を経験したドイツ、フランス等の国家意識を乗り越え、欧州人としての共通基盤を築くというのは素晴らしいことだ。最近は自国意識の高まりなど揺り戻しがあるようだが、是非理想に向かって進んでほしい。
 子供の頃読んだ漫画で異星人が攻めてきて人類が地球軍を結成して戦うという物語があった。もしこの物語のように人類の存続が脅かされるような事態が生ずれば、地球人として小異を捨てて大同に就くのではなかろうか。多くの紛争も地球の中の地域的な問題として平和的に解決可能になるのではなかろうか。
 地球人としての意識の醸成のためには共通の外敵と共通の価値観が必要である。共通の価値は人権あるいは人類の存続であろう。外敵としては環境汚染、温暖化など地球全体の問題が深刻化している。地球人意識、連帯感が必要不可欠ではなかろうか。さらに宇宙探査が進めば異星人との遭遇も遠くないかもしれない。

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