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「800字文学館」

四キロの真鱈を捌く

斉藤 征雄

 昔の会社の仲間から電話があった。東北の海辺の町に住んでいて海釣りを趣味にしている。
「たら釣ったから、おくっから」
「おお、ありがとう。ただ、二人ぐらしだから一匹でいいからな」
過去の経験から、そう言わないと二匹でも三匹でも送ってきかねないからである。

 次の日、早速発泡スチロールのトロ箱が届いた。
 初雪が降るころから、東北の沿岸には産卵のために真鱈が近づくといわれる。丁度シーズンが始まったのだろう。箱を開けると、体長七十センチほどの立派な真鱈だ。他に三十センチのどんこが二匹入っている。鱈を持ち上げるとずっしり重い。体重計に乗って体重を差し引くと、ジャスト四キロあった。
 今から捌けば、夕食に刺身で食べられるなと思ったが、あいにく午後からOBペンクラブの会合がある。捌くのは翌日にすることにした。

 翌日朝から作業開始。刃渡り十五センチの出刃包丁では心許ないが仕方がない。
 表面のぬめりを拭きとって、まず腹を割く。残念ながら白子はなかった。雌である。大きな鱈子は入っていたが、魚卵は痛風によくないのでもったいないが捨てることにする。ちなみに白子は東北では「きく」といって鍋にすれば「きく鍋」、冬の味覚である。
 次に頭を落とす。出刃が小さいので背骨を切るのに苦労したが、ようやく切れた。子供の頭ほどある。内臓と一緒にビニール袋に入れて捨てることにするが、ずっしりと重い。管理人が怪しむかもしれないので一言断る必要があるだろう。
 いよいよ三枚におろす段階。プロのようにはうまくいかないが、ゆっくり包丁を入れてゆく。薄いピンクがかった身は実にきれいで、見るからにおいしそうである。しかし今日も会食の約束があり刺身は無理なので、大きな切り身にして冷凍庫へ。
 一時間ほどで作業は終了した。

 さて、これをどうやって食するかだ。手始めに昼食にアラで味噌仕立ての鱈汁を作ってみたが、予想した以上に旨かった。
 明日は取り敢えず、どんこの煮つけだ。

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