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「800字文学館」

ちらし寿司

斉藤 征雄

「今年の年末は、初台に集まろう」とのメールが入った。
 わが家では年に二回ほど、娘や孫たちと集まって食事会をするのをならわしにしている。娘たち夫婦四人に孫三人、それに私たちで総勢九人である。孫は全員高校生の食べ盛り。九人の胃袋を満たすのは並大抵のことではない。なので、ここ何年かはいつも外食、特に下の娘が勤めている会社のクラブは安くて快適なので専らそちらのお世話になってきた。
 それを今年はわが家でやりたい、という提案である。私はどちらでもよいのだが、負担はカミさんに集中するから彼女の判断が優先する。「そんなら、それでもいいよ」との英断が下った。

 早速、献立の相談。娘たちがアイディアを出し、財布はカミさん、私が買い出しという分担である。娘たちが一品ずつ持ちより、簡単なものは家で作るにしても「鳥のから揚げは二キロで足りる?」という具合で、九人分となれば量が半端でない。結局は大半をスーパー、総菜屋、デパ地下に頼ることになる。
 そんな中、娘たちから「久しぶりにお父さんのちらし寿司がたべたいなあ」という話がもちあがった。
 私の男の料理の人気メニューの一つだった。

 かんぴょう、れんこん、こんにゃく、にんじん、しいたけ、たけのこを細かくきざんで醤油と砂糖で味付けする。これを酢飯に混ぜて、湯がいたきぬさやとごまを散らすだけの田舎風のものである。変化技は、こはだなどの光り物を小さく切ったものと市販の金時豆を混ぜること。金時豆の甘さが子供の好みに合ったようだ。
 原型は、私の母親が作ったちらし寿司である。金時豆の代わりに、打ち豆が入っていた。大豆を石臼の上にのせて木槌でつぶし甘からく味付けしたもので、これが味のインパクトになったことを思い出して金時豆を使うことにしたのである。

 娘たちが、ちらし寿司と言えば私が喜ぶことを知った上での提案だとは思うが、本当に食べたい気持ちも半分だろうと自負している。
 イベントは三日後に迫っている。

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