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「800字文学館」

ヨーロッパの小さな国

志村 良知

 世界最小の国バチカン市国はローマのど真ん中にあり、独立国という感じは全くしない。もっともバチカン市国内で生活を営んでいる家族というのは無いそうなので国民の再生産は不可能、それで独立国と言えるのか疑問である。

 同じイタリアにはサン・マリノ共和国がある。その辺のおじさんが輪番で大統領をやる事で有名な国で、一国丸々が遥かにアドリア海を望む岩山の上にある。観光案内所では有料で入国査証を発行してくれる。記念切手が有名で、他国の行事に便乗したきれいな切手を発行して観光客相手に商売している。世界各国の使用済み切手も袋詰めで売っている。ここでは花好きだった母にと世界の花切手を何袋も買った。

 スイスとオーストリアに挟まれたリヒテンシュタイン侯国は、感覚としてはスイスの一部で、アルペンスキー競技が強い。ここでも観光案内所で入国査証を発行してくれる。プロ用の工具メーカー、ヒルティの本社工場があり、我々は製品管理用のレーティングラベルを納入していた。代理店同行で訪問した折、「我が国やスイスの産業は(日本と違って)環境汚染とは無縁のものばかりである」と言われてむっとした。

 ピレネー山中のアンドラ公国は、フランスからだと標高2407メートルのピレネーで一番高い車道峠の頂上直下が国境である。消費税、関税がゼロの買い物天国で、山の中に大きなショッピングモールがあり、ガソリンも安い。主要道路が一本スペインに向かって走っているが、約40キロ、国境までひたすら下るのみである。

 おなじみ、モナコ公国ではカジノに出入りしなくてもモナコグランプリのコースを運転するという楽しみがある。走ってみると、こんなところを平均250キロで走るというF-1パイロットの偉大さが良くわかる。そうは言っても、モナコでは軍資金せめて1万ユーロ位をタキシードの懐に、ブラックジャックのテーブルに座ってみたいものである。

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