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「800字文学館」

便秘と梅干

首藤 静夫

 会社の元先輩から酒席で聞いた話である。
「梅干の種をまるごと飲み込むと便秘や二日酔いに良いそうだ。最近試しているよ」
 この人は元来この手の話題が好きで、気に入ったものはすぐに試す。適当に聞き流したつもりだったが、僕も鵜呑みしやすい性質ゆえ、二日酔いに効くならと始めてみた。
 梅干の種は堅いし片方の端が少し尖っているので消化管を傷つける心配がある。会社の嘱託医と会食の機会に話に出してみた。ドクターは、
「聞いたことがないねえ。そもそも胃では溶けずにそのまま尻から出るんじゃないの、効果があるのかねえ。種の尖った端は大丈夫、マチ針を飲んでも丸い方から落ちるというから」

 あり合わせの梅干で試したが二日酔いにはさっぱり効かない。大きい種でないとダメかと大粒の梅干を買い求めた。しかし、今度は飲み込むのが大変だ。相当の覚悟でゴクンとやらないと喉をとおらない。奮闘したのに効き目がなく断念、この件は忘れていた。
 ところが後日、診察でそのドクターに会ったら、
「南高梅でやっているが私の便秘には一向に効かない、だがここの看護師にはいいそうだ」
 まさか、会食時の他愛ない会話がドクターから看護師にまで伝わって、しかも試されているとは――。
 診察の帰りにその看護師に尋ねた。彼女がいうには、いろんな大きさの種で試した、大きいとよく効く、しかし診療室でただ一人の昼食、種を喉に引っ掛けて窒息したらと思うと怖くて躊躇するというのだ。大仰な話になった。
 さらに後日談がある。取引先のある重役と会食中、話のなりゆきで便秘のことになり、先のドクターや看護師の話をした。
 暫くたってその重役から会食のお誘い。芸者が二人ついた華やかな座敷だ。
「お陰様で娘の便秘に助かっています。何とお礼申したらいいか・・・・・・」
 便秘に悩む人にはこんな情報でもと、その苦労が少し分かった。真に受けられても責任は負いかねるが。
 僕の場合はその逆で、後ろも前も出すぎて困る。

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