作品の閲覧

「800字文学館」

芸達者

大森 海太

 私はあまりテレビを見ないほうで、せいぜいニュース天気予報のほか、ゴルフ中継、囲碁番組、それにチコちゃんくらいであるが、昔の東宝映画の社長シリーズだけは放映のたびに録画して楽しんでいる。森繁久彌の社長に加東大介の常務、三木のり平、小林桂樹、フランキー堺などお馴染の顔ぶれで、内容はまいど他愛ないものであるが、いづれ劣らぬ芸達者で、何回見ても笑ってしまう。今の芸能人のことはよく知らないが、おそらく彼等のようにクセのある役者はもう出てこないのじゃないかと思う。

 落語では文楽、志ん生、円生、小さん・・・。これら往年の名人の話芸は、これまた現在の噺家に求めても無理だし、とくに私のご贔屓の志ん生さんみたいな人は、吉原の遊廓というものがなくなってしまった今、二度と現れないであろう。若いころ上野の鈴本には何回か行ったので、円生や小さんは直接聞くことができたが、志ん生にお目にかかる機会がなかったのは、いま思うと返すがえすも残念である。

 歌謡曲では美空ひばり、海の向こうならフランク・シナトラ。歌手、芸人としてこの二人の実力は他をはるかに抜きんでており、そのステージにはいつも惚れぼれしてしまうが、ひばりさんは早く亡くなってしまって、ナマの舞台を見ることができなかったのは心残りである。シナトラが若いころ出演した映画で、兄貴分格で共演のジーン・ケリーをご存知の方は少ないと思うが、全盛期の彼の画面狭しと歌って踊りまくる大奮闘は忘れられない。

 というように昔の芸達者たちを懐かしむばかりで、今の芸能界に関心を示さないのは老化現象だと言われれば、その通りと答えるしかないが、その時代にはその時代なりの風俗、文化があって、我々はその中で生きてきたわけで、今さら安室奈美恵でもないしと開き直っております。

【選者評】
なんだかB級グルメみたいな話ばっかりですね。モーツアルトとかオペラとか、もうちょっと格調の高いことは書けないんですかね。没です。 

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧