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「800字文学館」

能は面白そうだ

塚田 實

 高校時代の友人T君から電話がかかってきた。「能に興味ある? タダ券があるんだけど」。「是非、行きたいけど、その日の昼はH社の社友会でお酒を飲んでいるので、途中で寝るのが心配だな」と答えると「俺は飲んでいなくても寝るかもしれない」と返ってきたので、気楽に行くことにした。GINZA SIXの地下に能楽堂ができたのは知っていたので、一度入ってみたかった。能に興味はあったが、会社の能好きの後輩と国立能楽堂に行ったほかは「大阪城本丸薪能」を観たくらいである。

 T君は東京税理士会K支部会員で、この日は支部設立七十周年記念イベントとして、観世能楽堂を貸し切っていた。公演の前に約30分のワークショップがあった。舞台装置や所作など能のいろはを優しく説明してくれた。謡では祝言(しゅうげん)小謡(こうたい)「高砂」の最後の「千秋楽は民を撫(な)で……」を皆で声を出して習った。最後は、当日の演目「羽衣」のストーリーを詳しく説明してくれた。
 いざ、演目が始まると、とても迫力のあるものだった。シテの演技も素晴らしかったが、お囃子は調子よく場を盛り上げ、特に大鼓(おおつづみ)の「カン」という硬質な音と奏者たちの掛け声は舞台にピンと張りつめた緊張感をもたらした。約50分の公演だったが、眠るどころか舞台の魅力に引き込まれた。最後に「千秋楽は……」を大きな声で謡った。

 家に帰って、祝言小謡「高砂」について調べた。結婚式では「高砂や、この浦舟に帆をあげて……」が良く謡われるが、歌詞を真剣に読んだことはなかった。「高砂」「淡路」「鳴尾」「住江」と、私が関西で親しんでいた地名が沢山でてくる。高尚で近づきがたいと思っていた能が急に親しく思えてきた。
 ユーチューブで「羽衣」を見た。すると関連情報で「100分de名著 世阿弥『風姿花伝』」があり、見ると内容が優しく解説されていた。私の日本の古典蔵書で『風姿花伝』は本箱に眠っただけだったが、取り出してみた。
「秘すれば花」だったかな。

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