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「800字文学館」

アメリカよ世界をどこへ

野瀬 隆平

「この二年足らずの間に、我が国の歴史上のどの政権よりも、大きな業績を私の政府は成しとげた」
 時間に遅れてきたのに悪びれることもなく、国連での演説の冒頭、トランプ大統領は各国の首脳を前にこう語りかけた。自信満々の様子に列席者から思はず失笑が漏れる。このシーンは世界中に報道され、多くの人の耳目を集めた。
 しかし、もう一つ興味あるスピーチが同じ国、アメリカであった。

 亡くなった共和党の重鎮、マケイン上院議員の告別式での事である。本来、弔辞を読んでしかるべき共和党のトランプ大統領は、故人の遺志もあり招かれず葬儀に出なかった。
 弔辞を依頼された一人が、共和党の元大統領であるブッシュ・ジュニア氏。これは妥当なところであるが、もう一人は、なんと共和党と敵対する民主党の前大統領オバマ氏だった。オバマ氏の弔辞も良かったが、注目すべきは遺された娘のメーガンさんのスピーチである。
「父の偉大さは、安っぽい口先だけのものとは違う本物である」
と強調したあと、
「マケインのアメリカは、再び偉大にする必要などない、何故ならばアメリカはずっと偉大であったから」
とあからさまにトランプ氏を皮肉ったのである。
 大聖堂に参列する多くの人たちの間からは、期せずして拍手が起こり、しばらく鳴りやまなかった。厳粛に行われるべき式場にふさわしくないことを知りつつ、参列者が示した正直な反応だった。共和党の支持者にも、トランプ氏だけはどうにも我慢がならないと思う人が多くいるのだ。

 グローバリズムに反対し一国主義を主張するトランプ大統領には、国内に熱烈なる支持者がおり、またヨーロッパでもそのような風潮が見られるのは確かである。
 大統領の強引な権力に引きずられて、このまま歴史に逆行するかに見える方向に世界が向かうのか。あるいは、アメリカ国民のバランス感覚により、軌道修正がなされるのか。11月に行われる中間選挙の結果が大いに注目される。

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