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「800字文学館」

美人女医の早業

首藤 静夫

 僕は左足の親指が軽い巻爪だ。注意しているが時々深爪にして痛い目にあう。爪と皮膚の間に綿を詰めたりテーピングしたりで爪先の陥入を凌いでいる。1週間程度で軽快するが今回は1ケ月たっても痛い。行きつけの皮膚科が廃院、仕方なく別のクリニックを受診した。

(おっ、明るい雰囲気、受付の女性も感じがいい――)
 先生は、森泉に似た美人だった。小麦色の肌にスタイリッシュなドクター着。40歳前後か。
「先生、痛みがとれないんです・・・・・・」
「うーん、腫れてますね。どの辺が痛いですか、このあたりかしら」
「あーっ、押さえちゃ・・・・・・」(息が詰まって声がでない)
 ニッパーで爪と皮膚の間を無造作に掻き始めた。
(慎重にやってよ、もう)
「テーピングして様子を見ましょう」

 10日経ったがダメ。またテーピング、やはりダメ。数回繰り返すがダメ。
「ワイヤーでやりましょうよ、その方が早い」
何でもミニドリルで爪の両端に穴をあけ、ワイヤーを爪に這わせて穴に通し、針金の先は伸びた爪の裏側に接着剤で固定するという。形状記憶合金の、元の直線に伸びようとする性質を利用して、食い込んだ爪の端を伸ばすのだと。
 予想外の話の展開だ。ドリルだなんて、肉まで突っ込んだらどうするのだ。針金も尖っているし――今は尖ったものは一切だめでしょう。
 しかし女医はすましたもの。やるしかないのか。今後の予定はどうだったろう。
 仕方ない、分かりましたと言うと、ではと処置用ベッドを指示された。
「えっ、今からですか、まだ何の準備もしてないし、妻にも話していないし」
「何を言ってるんですか、処置は5分あれば終わりますよ」
「えっ・・・・・・?!」
 ベッドで足を出し、気を鎮めているうちに早くも爪に穴があき、次に針金が。
「先生、慎重にお願いしますよ」が聞こえたかどうか、これも手早くやられ、
「接着剤塗って!」と看護師に指示しておしまい。
 すごい早業だったが痛みも2日でとれた。

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