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「800字文学館」

坂東三十三観音めぐり

大森 海太

 現役時代二年ほどお世話になったK社のOBのウォーキング会は、その名も「大人の休日」を無断で借用、私も数年前この会に入れてもらった。
 当時は秩父三十四札所めぐりの最中で、一回に数ケ所お参りして歩くのだが、私も含めて皆さん、ペンクラブ諸賢と違って行く先々のお寺の由緒因縁、故事来歴にはあまり関心がなく、取りあえず本堂にお参りして、無病息災、家内安全、子供や孫たちもよろしくお願いしますと、十円玉のお賽銭にしては過大な要求を申し上げる。次にいそいそとご朱印帖を取り出し、三百円払って墨痕鮮やかに記帳していただくのだが、そのくせあとで「いいよな、書いてハンコ捺すだけで金がもらえて、税金も払わないし」などと悪態をついたりする。
 何軒かまわって夕方になるとお目当ての打ち上げ、お寺も仏様も忘れて賑やかに懇親会となる。昔のお伊勢参りほどではないにしても、凡人の民間信仰とはまあこんなものだろう。

 その後もアチコチの七福神に参ったり、一泊で善光寺、戸隠方面に出かけたり、幹事さんが都度いろんな企画をして下さるので大いに楽しんできたが、昨年秋、誰かの発案で坂東三十三観音とやらを制覇してみようということになった。
 先ずは年末、近場で浅草の観音様を皮切りに、年明けに鎌倉の長谷寺など四寺、続いて横浜の弘明寺、埼玉の正法寺、そして六月には足を延ばし、宇都宮一泊で近辺の寺に詣でることとなった。

 当日宇都宮駅に集合してバスで益子へ、陶器の店が立ち並ぶあたりから西明寺まで徒歩三〇分、最後の登りがきつかった。夜は餃子で宴会、翌日はレンタカーに分乗して茨城県北端の山奥で最大の難所といわれる日輪寺に参り、袋田の滝に立ち寄ったあと、時間があるので大谷石で有名な大谷寺も参拝。これで十ケ所廻ったことになるが、あとまだ二十三寺、最終は南総館山の那古寺で満願成就ということだが、いつのことやら。それまでみんな元気でいられるかどうか、気になるところではある。

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