作品の閲覧

「800字文学館」

「マネー」を生み出す

野瀬 隆平

 お金はどこで造られているのか。お札や硬貨は、いうまでもなく印刷局や造幣局で造られ、日本銀行を通して世の中に送り出されています。
 しかし、この他にもお金を創り出している所があります。それは、我々が利用している市中銀行です。どういうことか。

 誰かが銀行に1,000万円お金を預けたとします。お金を預けたので、手元には現金はありません。しかし、信用のおける大銀行に預けたのですから、いつでも必要なときには引き出せると思っている。従って、預けた人はまだ1,000万円は自分のものだと考えています。
 お金を預かった銀行はこれを元に、ある人に900万円を貸したとします。借りた人は、そのお金で物を買ったり、サービスの提供を受けたりします。本人はいつかは返さなければと考えていますが、物を売った人、サービスを提供した人は、受け取ったお金の出所を知りませんし、関心もありません。手に入れたのは正真正銘のお金です。勿論、将来誰かに返す必要のあるものではありません。ここに、900万円というお金が新たに創造されたことになります。
 銀行が1,000万円を預かって、その大部分の900万円を他の人に貸しても良いのかという素朴な疑問を抱きます。預かったお金を全部貸し出すことは流石に認められていません。
 しかし、一定の割合で預金の引き出しに備えるお金を取っておけば、銀行は残りのお金を他の人に貸してもよいのです。この準備すべき割合が低いので、銀行にわずかな原資があれば、大きな「信用創造」(お金をふやすこと)ができるのです。

 最近では、市中銀行のみならず、IT各社が金融の業務に乗り出しています。顧客に関する膨大なデータをAIが分析し、高い精度で信用度を割り出すことが可能になったからです。
 経済の話をするとき、現金のことを「お金」といい、これに預貯金を加えたものを広く「マネー」と呼び、使い分けるのが一般的です。今後、目に見えない「マネー」の役割が益々大きくなってゆくと思われます。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧