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「800字文学館」

広き廈(いえ)千万間

内藤 真理子

八月秋高風怒號  八月 秋はたけて風は怒りさけび
卷我屋上三重茅  わが屋(むね)のうえなる三重の茅(かや)を卷く
茅飛度江洒江郊  茅は飛んで江(かわ)を渡りて江郊にそそぎ
高者掛纏長林梢  高きものは長き林の梢に掛りてまとい
下者飄轉沈塘坳  低きものは漂い転(まろ)びていけのくぼみに沈む

 杜甫の【茅屋為秋風所破歎】茅の屋(いえ)の秋風に破られし歎き
の冒頭部分である。 
 東京は、立秋を過ぎた途端に猛暑から秋に転じた。台風13号が南の海に発生している。天気図では、暴風圏の円と今までの進路を表わす黄色い尻尾をつけた台風が八丈島の方からゆっくりと関東に向かっている。
 テレビの実況中継では、波がうねり、大木が風に翻弄されている景色が映しだされる。それを見ながら、この詩を思い出した。
 詩ではこの後、雨漏りに悩まされ、自分の非力に打ちひしがれて、
 安得廣廈千萬間  いずこにか得ん広き廈(いえ)千万間
と詠まれている。
 杜甫は、台風になぞらえて、社会の不公平に悩む弱きものをすっぽりと抱え込み安住できる大きな家はないものかと謳っているのだが……。

 今年は異常気象で、台風はいつもとは進路を変え、膨大な被害を出している。台風の進路に当たる地域では早めの非難を要求される。現在は過去の災害に学び、安全な避難所・広き廈(いえ)が千万間(=?)用意されている。それは、学校の体育館や、公民館のような大勢の人を収容できるところだが、そこに避難した人は、大切な住まいがどうなるか不安でたまらないことだろう。
 私は避難所がテレビに映し出される度に胸が痛くなる。
 身一つでそこにいる不安に加えて、肉体にかかる負担である。大抵の避難所は段差のないフラットな床に敷物が敷いてあるのだが、私のような腰や膝が痛い者にとっては耐えられない姿勢を強いられることだろう。せめて寄りかかって腰かけられる椅子のようなものを準備して頂きたい。避難している人を我ことに置き換えると切実である。

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