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「800字文学館」

猛暑

安藤 晃二

 大腸の内視鏡ポリープ切除手術、病理検査結果の確認まで、府中の病院で長い時間を要した。七月の猛暑の日「良性」が確認され、終わり良ければ全て良し、である。

 帰り道、妻と近くの大国魂神社に立ち寄る。この人出は「すもも祭」の縁日だ。1051-1062年、朝廷の命を受けた源頼義、義家親子が東北安倍氏を討ち平定した「前九年の役」。その帰途の戦勝御礼詣でに「巴旦杏」を供えた縁起が今日まで続く。

 舞台で能を観る。隣の乳母車の赤ん坊が笑う。携帯用の電動超小型扇風機、猛暑撃退の新兵器を握る。「あなた、これを買いましょうよ」。一時間後電気店で妻は可愛らしいファンを手に入れた。「僕は、あんなデンデン太鼓みたいなの持ち歩けないよ、扇子で十分だ」

 偶然であったが、その店で、蛍光灯との交換が懸案の、大型の台所用LED照明が見つかり、即断して持ち帰る。翌日、家内の外出中に作業を開始する。この機器は直か付けである。即ち、電源元線内の二本の支線を引き出し、その銅線を剥き接続する、電気屋の仕事だ。案の定ニッパーサイズが合わず銅線切断の失敗をおかす。「ブレーカーを切ってある。熱中症になるよ」と誰かが囁く。新兵器だ。ファン購入は大国主命のご託宣であったか、胸ポケットに挿すと大変具合がいい。アメリカのDIYで購入した多サイズ対応の被覆線剥き工具を思い出して使うと見事要求に応えてくれた。

 また伏兵が現れた。天井に木ネジが全く効かない。位置をずらし、脚立の上で二時間の闇雲の格闘の末、体力の限界を感じて降参する。販売店の業者はエアコンに取られ、二週間待ちだ。曰く、前の蛍光灯設置業者は天井に工夫をしている筈。妻が帰宅し、脚立の上で電動ドライバー用錐揉み作業を続ける僕にあきれ顔だ。深呼吸をして、なにくそと、いま一度挑む。ハンマーで天井を叩き、音を聴き分け、ネジ打ち場所を発見した。設置作業は瞬時に成功する。終り良ければ全て良し、大国魂神社の赤ん坊がまた笑った。

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