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「800字文学館」

暑い!

内藤 真理子

 暑さを逃れて群馬県の岩櫃にある区の保養所に行った。
 だがこちらも暑い。
「朝晩は涼しいですよ」という宿舎の人の勧めで地図を貰い、早朝、近辺を散策することにした。 
 目的地を岩櫃城址と決め、田んぼの中の田舎道を通って岩櫃山平沢登山口のだだっ広い駐車場に車を止めた。大型バスが何台も駐車できそうだ。
 今は小さな案内所が一軒あるだけだが、大河ドラマ「真田丸」が放映されていた時の賑わいが想像できる。
 地図には、駐車場から岩櫃城本丸址まで二十分と書いてある。いざ歩き始めると木々の生い茂る間道ではあるが、急な上り坂なのだ。その上、すでに気温は上がっていて暑い。五分ほど歩いた所に広場があって、中城址の看板がある。ここでもう汗びっしょり。折れそうになる気力を振り絞って先を行く。本丸址の道標が見えて来た。そこから更なる急坂を上るとそれがあるらしい。
 側らにある石のベンチに腰をかけて一休み。せっかく緑の中にいるのに、湿気を含んだ生ぬるい空気に小さな虫がうるさい。
 ふと見ると山の斜面に山百合が群生している。白地に黒の斑点のついた艶やかな花を見ていると、ここも城が落ちる時には戦場になったのであろうかという思いが湧いた。甲冑を纏った疲れ果てた落ち武者が……抜いた刀には血の跡がべっとり。こんな連想をするのは草いきれの所為だ。
 あ、思い出した。真田丸では、ここは一度も落城していなかった。草刈正雄演じる、真田幸村の父真田正幸が策略をめぐらせて家康を煙に巻いた場面がなつかしい。
 重い腰をあげて本丸址に向かう。
 視界がパッと開け、涼しい風が通る「気持ちいい~」
 ここは上田城と沼田城を結ぶ真田道の中間地点で重要な位置を占めていたと書いてある。岩櫃山の斜面を利用したこの山城は、山頂から二百メートル低い場所にあり、本丸、二の丸、中城があり、これ等を中心に広い範囲で堅堀や曲輪が点在する典型的な中世の山城だと図面入りで解説があった。
 読み終わった後には元の暑さが~。

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