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「800字文学館」

初めての対馬

大津 隆文

 五月初め友人に会ったら、格安便の直近割引で成田‐プサンが片道5500円で出たので、行ってくるとのことだった。彼の計画で驚いたのは、プサン滞在中に高速船で対馬も観光するとの奇策。対馬へはかねて行きたいと思っていたので、是非同行させてもらうことにした。
 プサンからのビートル便は快適な乗り心地で一時間余りで対馬の比田勝港に到着し、日韓の近さを体感した。乗客約200名のほぼ全員が韓国旅券の人達だった。まずは対馬の北の比田勝から南の厳原へ乗り合いバスで約二時間半かけ移動、車窓からは新緑とリアス式海岸の景観を堪能した。

 翌日は厳原で朝鮮通信使の足跡等を案内してもらったり、話を聞いたりした。興味深かったのは対馬は倭寇の根拠地だったことだ。元寇でひどい目にあったのでその仕返しという面もあったとか、倭寇征伐に押し寄せた朝鮮の大軍を対馬独力で撃退したとか、倭寇の棟梁の末裔が同級生にいたとか、倭寇は身近な歴史であるようだった。
 韓国が近いため、韓国人の旅行客が多い。島の人口は約3万人で、昨年の韓国からの旅行客はその十倍超の35万人だったとのことだ。韓国人の土地購入が話題になるが、これだけ自国の旅行客が多いと、当然、バス会社、免税店、宿泊施設等に韓国資本が進出してくる。土地の相場は坪5千円から1万円で、人口減のなか買ってくれる人があればという住民も少なくないようだ。

 二日目の夜は比田勝に戻り民宿に泊まった。夕食はサザエの山盛り、刺身盛り合わせ、メバルの煮つけ、穴子の天麩羅等が豪快に並び、食べきれなかったのは誠に無念というしかない。また、愛飲する焼酎を振る舞ってくれたご主人と奥様のお人柄も貴重な「おもてなし」だった。
 辻原登の小説『韃靼の馬』に描かれているヒトツバタゴ(別名なんじゃもんじゃ)の花が美しく咲き乱れる島、歴史的に日韓交流の最前線であったこの島が、これからも両国の友好の島として発展していってくれればと願ったことであった。

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