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「800字文学館」

釈宗演遠諱百年展

塚田 實

 「釈宗演遠諱おんき百年記念特別展 釈宗演と近代日本―若き禅僧、世界を駆けるー」が慶應義塾大学で開催されており、臨済宗円覚寺派管長横田南嶺師が講演される日を選んで出かけた。

 釈宗演は26歳で円覚寺今北いまきたこうせん師から印可いんかを得たが、これからの仏教界は世界に向けて発信することが重要だとの信念から、師の反対を押し切って慶應義塾に入学し、福澤諭吉から英語と洋学を学んだ。卒業後更に南方仏教を体得するためセイロンに渡り、パーリ語を学び仏教の源流を探ろうとした。1892年には34歳の若さで円覚寺派管長に就任した。
 釈宗演は、1893年シカゴで開催された万国宗教会議に出席し、欧米人に禅を初めて講じた。廃仏毀釈の嵐の中で、近代と向き合いグローバルに活躍した姿には並々ならぬ決意が感じられる。禅はその後シカゴに同行していた鈴木大拙等によって、様々な著作が英語で出版され、「ZEN」に対する知識と理解は世界に広まっていった。

 特別展を一つ一つ丁寧に覗き込んでいたら、同じペースで展示を熱心に見ている若そうなお坊さんがいた。「随分熱心だな。円覚寺で修行するお坊さんかな?」と感心していた。  展示品の中には夏目漱石の「門」の原稿もあった。夏目漱石は釈宗演のもとに通い禅の修行に勤しみ、この体験を「門」に書いた。

 横田南嶺師の講演をしっかり聞こうと前列に座った。横田師が円覚寺派管長とは知っていたが、まだ見たことはなかった。ただ漠然と円覚寺の管長だから、60歳か70歳くらいのお坊さんだろうと勝手に想像していた。ところが講演に立ったのは、先ほど熱心に展示を見ていた若いお坊さんだった。横田南嶺師は現在53歳、円覚寺派管長に就任したのは45歳だったというのは後で知った。つやつやとした肌の輝きから、40歳台半ばにしか見えなかった。
 師は笑顔で釈宗演を称えながら、現代の禅について優しく語った。

 鎌倉時代創建の円覚寺では昔も今も若き禅僧が躍動している。

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