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「800字文学館」

「ウィーン少年合唱団」雑感

池田 隆

 妻からウィーン少年合唱団の東京オペラシティ公演へ突然誘われた。歌唱好きの彼女は中学時代に公会堂で聴いたウィーン少年合唱団が忘れられないという。孫娘と一緒に見たいとチケットを二枚買ったが、部活があると断られ一枚がお茶を挽いたようだ。
 歌うのが大の苦手の私だが、テレビが家に初めて入った高校時代に、その凛々しい姿と澄んだ声に感心した覚えがある。出掛けて来たものの音楽会は眠気が心配である。幸いに座席は一階の後から二列目、此処なら目立たない。鼾をかいたら肘で突っつくと言われ、第一部の聖歌など伝統的な歌の間は安心して目を閉じて聴く。
 休憩時間は椅子に座ったまま上下左右を見まわし、コンサートホールの構造や内装を観察する。尖った天井に三角形の明り取り、和かい木質で統一した内装、天井から吊った天蓋や木片などは全て音響効果を考えたデザインであろう。私にその効果を聞き分ける聴力はないが、視覚的に調和のとれた美しさに見惚れる。
 第二部に入るとウェルナーの『野ばら』やヴェルディの『マクベス』など、聴いたことのあるメロディの曲が多い。少年全員で『ふるさと』や『千の風になって』などを日本語で歌う。さらに歌いながら飛んだり跳ねたりと舞台を動き回る。ヨハンシュトラウスのワルツ合唱にのせて団員の大人二人が壇上で踊る。芸達者な指揮者はピアノだけでなく太鼓も叩き指揮を執る。
 ショーマンシップたっぷりの演出は退屈しない。だが何か期待外れである。お揃いの水兵服姿と声の美しさは六十数年前と同じだが、あの少年楽団員の近寄り難い端正さがなく、市井の子供たちと違わない。きっと私が時代遅れで感覚的についていけないのだろう。
 そう言えばテレビを見ていても昔のように直立不動で歌う歌謡歌手を殆ど見掛けない。例外は人気のコーラスグループ「フォレスタ」ぐらいである。その観客が高齢者ばかりなのは私と同じ気持ちの人が結構いるのかも知れないと自らを諭しながらホールを出た。

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