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「800字文学館」

復興支援コンサート

川口 ひろ子

 音楽仲間Y氏に誘われて東日本大震災復興支援コンサートに参加した。
 主催は青山学院大学と同窓会の有志の皆さん。会場は大学構内のガウチャー礼拝堂、演奏曲目はバッハの「G線上のアリア」モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」他で、いずれも弦楽四重奏曲に編曲されていた。演奏はNHK交響楽団の弦楽器奏者4人。
 大学宗教部長塩谷教授の司式により15分程の礼拝が行われ、いよいよ演奏だ。今年で7回目になるこの支援コンサート、礼拝堂は約500人の聴衆で満員だ。ヴィオラ奏者のユーモアたっぷりの開会挨拶に客席のご婦人たちは「ハッハハー」と笑って答える。私たち気心の知れた仲間ですと言わんばかり、舞台と客席の和やかな交流に驚く。
 「どうだ! どうだ!」と緊張感の漂う馴染みのクラシックコンサートとは大分様子が違うが、感心したのはN響の皆さんのぶれない演奏だ。繊細な弦の音色が美しく溶け合い魅惑に富んだ響きを創り出していた。

 毎年開催されるコンサートの浄財は、被災遺児のための奨学金として活用されているという。ロビーには遺児たちからの感謝状が展示されていた。その中から津波で父親を亡くしたという学生の手紙が会場で読み上げられた。「父が流されて落ち込んでいましたが、奨学金を頂き勇気が湧いてきました。これからは感謝の気持ちを忘れずに頑張りたいと思います」
 岩手、宮城、福島の3県はホームページで「人智を超える自然災害や放射能の脅威はいまだにコントロールできず被災地をむしばみ続けています。今後子供たちが学業を終え社会人として自立できる日まで息の長い支援を続けて下さい」と呼び掛けている。メディアの報道も少なくなり東日本大震災のことは忘れかけていたが、明日は我が身だ。

 偶然、音楽が縁でこのチャリティコンサートに参加した。「ささやか乍ら来年も、再来年も、生きている限り応援するわ」と呟きながら、大勢の学生が行き交う学院キャンパスを後にした。

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