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「800字文学館」

東村山市立 化成小学校

清水 勝

 菖蒲を観ようと東村山に出掛けた。大善院、正福寺を経て菖蒲園に到着。木陰で一杯やり、新田義貞が陣を張った八国山を散策して、久米川の古戦場跡、といっても周りは静かな住宅地になっていたが、心は1333年の義貞の気分で暫し過ごす。
 帰り道、「化成小学校」という名の小学校の前を通った時、仲間から「ここには三菱化成の工場もないし、この地区は諏訪町だよ。不思議な校名だな」と言い出す。確かに小学校の校名は市の名前にナンバ―を付けるか、地域の名前を借りているものが多いだけに珍しい。
 気になって学校のHPを調べてみたが特に記載されていない。いろいろと検索した結果、タレント志村けんの出身小学校で、明治八年に創立され147年の歴史を誇る小学校と判った。
 創立当時の関係者は漢文の素養が豊かだったようで、『易経』の一節「観乎天文 以察時變 観乎人文 以化成天下」天文てんぶんを観て以って時変を察し、人文じんぶんを観て以って天下を化成す)、自然の状況を観て時の変化を明らかにし、人間の動きを観て天下を良き方へと導くとの意からの命名だという。小学生には難し過ぎる内容だが、明治人の気概を表わしているのかもしれない。あるいは新政府の年号、明治に影響されたとも考えられる。

 明治の年号の由来は『易経』の「聖人南面而聴天下、嚮明而治」(聖人南面し天下を聴き、めいむかいて治む)で、聖人が正しい位置にて政を行えば、世の中は明るい方向に治まるとの意からだ。
 では大正はというと、同じく『易経』の「大享以正、天之道也」(大いにきょうを正すをもって天の道なり)、天の徳が支障なくゆきわたり、まつりごとが正しく行われるという意味からである。
 しからば昭和は、『四書五経』の「百姓昭明、協和萬邦」百姓ひゃくせい昭明にして、萬邦ばんぽうを協和す)からで、人々がそれぞれの徳を明らかにすれば世界各国の共存繁栄が出来るとの意である。
 平成は、『史記』五帝本紀の「内平外成」内平たいらかに外成る)、『書経』大禹謨だいうぼの「地平天成」地平たいらかに天成る)、国の内外、天地とも平和が達成されるに依る。
 さて、来年四月からの年号はどうなるのだろうか。中国の古典からではなく、そろそろ日本の古典、例えば『万葉集』から名付けて欲しいものだ。

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