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「800字文学館」

ロイヤルウェディング

安藤 晃二

 テレビの前の特等席でBBCを観る。G・クルーニー、ベッカム、セレナ、お偉方は? 両人の希望で、招待客は、二人の友人達、社会貢献者(例、命を賭した消防士)である。斬新な発想だ。ドイツ車が急停車、ハリー王子と立会人の兄、ウイリアム王子が飛び降りる。Blues and Royals(近衛騎兵連隊)のフロックコートの軍装で颯爽と礼拝堂へ。

 結婚礼拝が始まる。アンセムのソプラノソロの中、メーガン嬢の父親役の皇太子が、笑顔で花嫁を祭壇に導く。この人も今日は良い御役目だ。儀式は、カンタベリ大司教J・ウェルビー氏が司式、英国国教会の典礼に沿って進む。

 説教壇に現れたのは大司教ならぬ、米国聖公会(国教会系であるEpiscopalian Church)の総裁主教、アフリカ系のM・カリー氏だ。その説教が新機軸の極め付けとなる。ご両人が望み、カンタベリ大司教の大推奨で招いた。カリー主教は爆発する。法衣を翻し、笑顔でフルトーンの14分間、人々の呼吸を奪う。

「両人の『愛の力』が今日集まった人々の心を繋ぐ。『愛』を過少評価してはならない。南北戦争前の奴隷制の悲惨が、社会正義を引っ張り、黒人霊歌に歌われる強い『愛の力』により今日を齎した」。誰もが花嫁や主教のルーツを思ったに違いない。「家庭、政治、仕事の場でも『愛が唯一の道』です」。「もう一言で終わりますよ、お二人を結婚させないとね」。会衆が爆笑。「人類最大の発見は『火』、そのエネルギーが鉄器時代からインスタグラムまで可能にした。『愛の力』の実現が、第二の『火』の発見です」と結ぶ。
 儀式の終盤、米国のKingdom Choirによる黒人ゴスペル”Stand by Me”
の大合唱が鳴響く。

 翌日の新聞は「歴史に残る出来事」、「ブラックカルチャーがロイヤルウェディングへ」、「公民権運動の精神を注入」、「王室は多くを投げ捨てた」と絶賛報道であった。
 両人は奉仕活動や女性権利運動に惹かれる。「母が生きていたら跳び上がって喜んだ筈」、ハリー王子の言葉が熱い。

 時代の変遷を目撃し、清涼感が残った。

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