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「800字文学館」

二百年住宅

稲宮 健一

 三沢千代治氏の提唱する二百年住宅の講演を聞いた。ミサワ住宅の創始者は「HABITA」と言う会社を立ち上げこの実現に活動されている。三沢は住宅の寿命は二十年との定説は不合理だと主張し、この課題を取り上げた日経ビジネス誌はこの悪弊のため日本の富が累積で五百兆円が失われていると記述している。

 我が家は典型的な高度成長期に建てた戸建て住宅である。この付近でも高齢化の影響で、維持管理されず放置されている空き家が多い。築後二十年の物件を業者に持って行くと上物はただ、土地しか評価しない。家を維持管理する気にならないのも理解できる。老朽化住宅だけでない、最近近所の戸建て住宅が壊され更地になった。我が家より遥かに上等で、まだ住めるのに、もったいない。しかし、重機が入ると瞬く間に木屑となりダンプに収まる。二十年経っても十分住める。税法上の評価と住めるという価値は等価でない。新築物件が増えれば業者は一時的に儲かるが、損をするのは家主と国の富だろう。

 太い柱、梁の見事な古民家は別格だが、一般に広く住宅が行き渡ったのは高度成長期後だ。量が先行して、質は二の次だった。かつて一般住宅は大工が建てる安普請が多かった。しかし、阪神大震災、東日本大震災、度重なる大型の台風で、まず災害に強い住宅を造る機運は広がり、建築基準法が見直された。まず、耐震性の良い家を持つ気運は定着してきた。

 しかしながら、住みかえても資産価値が下がらない住宅は実現していない。ある建築の専門家は家の売買に消費税を課すべきでない。住宅は消費財でなく、資産なのだと。家の建築寿命は柱の太さの自乗に比例して長持ちする、国産の木材を倍使っても建設費は二割高になるだけ。また、天然材に新規な加工を施し、遥かに高い強度の補強が可能になった。しかも、今や土地は余っている。住宅の価値は二十年でゼロなどという刹那的な考えを改め、国富を無駄にしない総てに長生な社会にしていきた。

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