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「800字文学館」

キリがない

中村 晃也

 TBSテレビでプレバトという番組が好評を博している。俳句甲子園を立ち上げた俳人夏井いつきが、出演者がお題写真をもとに造った俳句を順位付けし、作者を「才能あり」「凡人」「才能なし」と査定する番組である。写真に俳句を付ける手法はペンクラブでのフォト句会でのそれを踏襲している。

 夏井氏の指導の要点は、季語を働かせることにより、句を映像化することである。陳腐な比喩や語呂合わせ、言葉の無駄遣いや手あかのついた言葉「染める」「舞う」「燃える」の凡人三大動詞などの使用をことに嫌う。
 俳句の要諦はハッキリ、スッキリ、ドッキリであるという。何を詠みたいのか対象を明確にし、それを最小限の有効な言葉で表現する。内容的には新しい発見や驚き、意外性、オリジナリテイの存在が肝要であるという。

 常に唐突に話が始まる妻との会話。
「Aのお店では少し高いと思ったので、十分も歩いて隣の奥さんに聞いたBの店にいったのよ。そこのお値段はまあまあだったけど品質が気にいらなかったの」
「ふーん」と私。
「それでもとの店に戻ったら、Cさんの奥さんに会っちゃって。あそこのご主人入院したんだって。医者から痴呆症の気があると言われたそうよ。貴方も注意してよ」
「それで何を買ったんだい?」
「結論を急がないでよ。ウイグひとつを買うのだって、女はお店を何軒も回って性能と値段を比較して決めるのよ。決断するまでのプロセスが大事なんだから」
「鬘なんてどれも同じだろ?いくらで買ったんだい?」 「年寄り臭く鬘なんていわないでよ。ウイグと言ってよ。Cさんの奥さんのウイグはとても素敵なのよ」
「よその奥さんのウイグなんてどうでもいいんだよ。先ず買い物の目的物をハッキリさせて、結論としていくらで買ったのかをスッキリと話してくれよ」
「……。」

 急に口を利かなくなった妻に「どうしたんだ?」ときいたら、「貴方との会話は、もうコレッキリにしたいわ」と宣言され、内心ドッキリした。

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