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「800字文学館」

モーツァルトのレクチャーコンサート

川口 ひろ子

 モーツァルトは生涯32のヴァイオリン・ソナタ(ヴァイオリンとピアノの2重奏曲)を作曲したといわれる。この総てを収録したCDリリースされ、平成29年度文化庁芸術祭の優秀賞に輝いた。演奏者はヴァイオリン漆原啓子、ピアノはヤコブ・ロイシュナー。先日、お2人による記念のレクチャーコンサートが開催された。

 今日円熟期を迎えている漆原さんは幼少期から数々のコンクールに優勝というキャリアを持つ日本を代表するヴァイオリニスト、一方ロイシュナーさんはデトモルト音大教授の他、欧州、アジアや日本でも後進の指導に当たっているピアニストで日本語も堪能なドイツ人だ。
 まずは漆原さんが受賞の喜びを語った後本題へ。お2人はコミュニケーションの取り方、具体的には、楽譜の解釈、テンポの合わせ方、息使い、装飾音の付け方などについて解説してくれた。芸術家の専門用語を駆使しての体験談は私には難しい部分も多かったが、空気を感じるのが第一との結論は充分に納得できるものであった。

 演奏されたのは「羊飼いの娘セリメーヌ」による12の変奏曲K359、ヴァイオリンソナタk481の2曲で、どちらもモーツァルトの青春の叫びが聞こえてくるような魅力に富んだ曲、昔からCD聴いてきた大好きなナンバーだ。
 漆原さんの曖昧なところのない伸びやかで且つ引き締まったヴァイオリンの音色に、ロイシュナーさんの軽やかなタッチのピアノが絡まる。決して古色蒼然としたモーツァルトではない。クラシック音楽の現代のトレンドである古楽を意識した軽やかな奏法が心地よく、現代感覚にあふれる大変レヴェルの高い演奏であった。

 質問タイムだ。熱心なモーツァルティアン80人程で満員の客席からは次々と質問が発せられた。慎重に言葉を選んでいた漆原さんも徐々に身を乗り出してこれに答え、ついに愛器を持ち出して音質の違いについて解説を始める。ムンムンとした熱気につつまれた、真に充実した午後であった。

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