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「800字文学館」

日々風景が変わる

内藤 真理子

 近所の玉川上水の両岸に五十メートル道路を造る計画は昔からあった。
 それは、東八道路を中央高速・高井戸インターにつなげる一部区間の工事で、本格的に動き出したのは、十年くらい前からだった。
 従来の上水沿いの道はとても狭く、木々が生い茂っているため夏は涼しいが、雨が降るとぬかるんでいつまでも通れないような所だが、極上の散歩道だった。
 計画が進みだすと、狭い散歩道はそのままに、土手に迫るように建てられた家々は一軒又一軒と立ち退いて見通しの良い風景になった。
 地域の話し合いで、人見街道の牟礼橋手前に植わっている大欅を残すことになった。
 先ず、大欅を挟んで東京寄りに、交通量の多い東八道路の上り車線の橋を新たに造ることになる。
 ちなみに下り車線は、上水手前に五十メートル道路を造るための立ち退きは済んでいる。
 橋を架ける工程は、最初にそこを流れている水を太いブリキの管に閉じ込めて下流の一地点まで通し、川底を露出させることから始まった。重機が何台も入り、東八道路の橋は出来上がった。その後、人見街道に架かっていた牟礼橋も新しく造り替えられ、東八道路に架かったのと併せて、幅のひろ~い牟礼橋となった。
 そして二本の道路が交わる三角点には、地域の守り神のように大欅がそびえている。水を閉じ込めていた管も取り払われ玉川上水は元通りの清流に戻った。
 新しくなった川沿の土手道には、水はけの良い砂交じりの土が敷かれ、土手は、以前からあった桜などの大木を間引いたので明るくなったが、堰の辺りにある「水難慰霊碑」が目立つようになった。入水自殺した人々がこの堰で引き揚げられたのだ。
 そんなイメージの全然湧かない明るくきれいな遊歩道の外には、片側のみ二車線の車道。その外側は防音コンクリートの巨大な樹木箱、その又外側は自転車道路。更に花壇を挟んで歩道が造られようとしている。
 いずれ、全部合わせると片側五十メートルの道路が完成するはずだ。
 うるさくなるだろうな~。

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