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「800字文学館」

ずるい

稲宮 健一

 日本海側から初めて太平洋側に移り住み、冬を過ごした人が「ずるい」とつぶやいた記事を覚えている。トンネルを抜けると雪国だったは文学的な感傷で、雪に埋もれて暮らすとつぶやく気持ちは分かる。疎開で金沢へ年末移動した時も、上野発の汽車は長野で運転取りやめ、翌日、米原経由で到着したのはつい先ごろのように感じる。冬将軍と日本海がある限り豪雪はくりかえす。

 一次産業が主の時代では自然の厳しさに耐え、雪は田畑を潤す恵みと有難く受けた。しかし、今や、情報産業、人工頭脳等の時代なので、活動しやすい大都市に集まるのも無理からぬことだ。しかし、狭い所に人が集まり過ぎ、他で過疎が進むと国土の効率的な活用が進まない。均衡ある国土の発展でなくなる。

 横浜市ではみどり税が課せられている。年額九百円/一人と法人で二四億円の予算を集め、五月の連休のころは山下公園一帯で花いっぱいになる。同様に太平洋側の住民に雪除けお手伝い税の目的税を課しはいかがか。使用目的は雪害対策。中央から一切の口出しを許さず、雪深い所でじっくり対策を練ってもらう。単純に支援金を配るのでなく、雪害を少しでも軽くできる研究を地方の大学などと共に取り組むとか。例えば、雪が積もらない軽量なトンガリ屋根の付加とか、雪が付着しない繊維を開発し屋根に貼る、断熱材で覆われたタンクに気温の高い時に雨水を貯蔵して地中に埋め、井戸水同様に融雪に役立てるとか、この頃は中心部でもシャッター街が多いので、本当に激しい積雪日が予想されたら、臨時に避難所として退避できる家の開放とか。また、仕事なら今は何処にいても情報産業の支援でできる。

 かつて、大宅壮一が地方の大学を駅弁大学と揶揄したが、今やこれらの大学は特色を出して、良い人材が育っている。雪深い地域がリーグを組み、逆に雪を有効利用して、快適な地域社会を生む活動を活性化し、「ずるい」と言われない地域を愛する住民を増やす活動は如何でしょうか。

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