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「800字文学館」

冬の京都そぞろ歩き

塚田 實

 今年の漢字「北」に因んだわけでもないが、紅葉の季節が過ぎた12月半ばに京都の北山通・北大路通周辺を訪れた。
 修学院道バス停を降り、ゆるやかな上り坂を歩くと14分程で修学院離宮に着いた。下離宮から中離宮と巡り、田畑の中の松並木を上ると離宮最高所の上離宮隣雲亭に至る。眼下には浴龍池と大刈込が広がり、遠くには北山の山並みが遥かに続いている。これほど雄大な借景庭園も珍しい。
 参観を終え、山裾沿いに曼殊院を目指した。曼殊院は何回か訪れたことがある。曼殊院を今の地に移し今日の姿を完成させたのは、桂離宮造営に関わった智忠親王の弟良尚法親王である。遠州好みの庭園や国宝・黄不動尊(現物は京都国立博物館に寄託)で有名だが、「八窓軒茶室」があると聞き、特別拝観をお願いした。小さな茶室には形の異なる八つの窓がある。障子に桟(さん)が影を写し、茶室は静寂に包まれ柔らかい光で満ちていた。八窓は仏教の八相(お釈迦様の一生における重大事)を表すとされている。狭い空間で日本の美を堪能した。

 鷹峯に泊まっていたので源光庵に立ち寄った。2014年の「そうだ京都、行こう。」キャンペーンで有名になった悟りの窓と名付けられる丸窓と迷いの窓とされる角窓がある。丸窓は大宇宙を表し、角窓は生老病死などの四苦八苦を表しているという。紅葉の頃の華やぎはないが、冬の庭も味わい深い。二つの窓を眺めて思った。「私は角窓であがいている。丸窓になる努力をしよう」

 翌日大徳寺の大友宗麟ゆかりの瑞峯院を訪れた。方丈前の独坐庭は有名だが、方丈裏の閑眠庭も好きだ。宗麟は後にキリシタン大名になったことから、昭和の作庭家重森三玲が、中庭のキリシタン灯籠を中心に方丈裏に縦4個、横3個の石の流れで十字架を表した庭を作った。信仰に揺れた宗麟の一生を思い、庭をじっくり眺めていると、遠藤周作原作スコセッシ監督の映画「沈黙―サイレンスー」を思い出した。

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