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「800字文学館」

秋晴れの中山道へ

藤原 道夫

 秋晴れが続くという天気予報を見ながら、急に中山道の宿場を訪ねてみたくなった。
 列車はすべて自由席の一人旅、名古屋経由で中津川に昼頃着いた。何も調べていない旅、先ず駅前の案内書で宿場への行き方を尋ねる。地元のおじさんの説明が要領を得ない。駅に行くと駅員が馬籠行きのバスがすぐ出るという。慌てて乗り込むみ、30分程で宿場の入口に着く。立派な食事処で、栗おこわと川魚のフライが主な遅い昼食にありついた。
「これより北木曽路」の先を進むといきなり急坂に。間もなく藤村記念館が目についたので入って見学。藤村は長野県出身と思い込んでいたが、ここは岐阜県だ。人影が疎ら。古い大きな屋敷の土間でひとり椅子に腰かけ、ヴィデオを見る。「初恋」の詩が出てきてはっとする。昔々口ずさんだ覚えのある詩文が急に蘇る。更に進んで「小諸なる古城のほとり」に、これはしっかり覚えていた。

……あたたかき光はあれど 野に満つる香りも知らず 浅くのみ春は霞みて 麦の色わずかに青し……

 宿場の端まで行って引き返し、麓のコーヒー店で一休みして中津川に戻った。ここは栗きんとんで有名な街、製造元が沢山ある。支店を出していない老舗まで出かけ、土産と自分用に二箱求めた。

 翌日は妻籠に、交通の便がよくない土地だ。南木曽駅からタクシーに乗って宿場の入り口に。ポスターで見た旧街道を歩く。外国人の歩く姿が目立つ。立ち聞きした話しでは、スペイン、オーストラリア、アメリカからの人々がこの順に多いとか。途中手作りの栗蒸し羊羹を味見し、買うはめに。
 帰る段になって最寄りの駅に行くバス便がしばらくない事に気付く。タクシーで駅まで出ても中津川方面の列車は2時間余待つことになるという。しばらくして馬籠行きのバスが来たのでそれに乗り、乗り替えて中津川に出た。

 急に思い立った秋晴れの旅、中山道沿いの旅籠の風情はまあ楽しめた。懐かしい藤村の詩はおまけ。思えば栗おこわと栗の菓子に心惹かれる旅だった。

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