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「800字文学館」

サンマは炭火焼き

大月 和彦

 秋の風物詩目黒のサンマ祭で、今年も炭火で焼かれた三陸直送のサンマが、参拝客にふるまわれた。
 庶民の魚サンマは、炭火で焼いて食べるものだった。

 ずっと長い間集合住宅住まいだったので、炭火で焼いたサンマにはありつけなかった。ベランダで焼こうものなら建物全体に魚の匂いと煙が広がり迷惑をかけ、顰蹙をかってしまう。

 今の家にある「無煙・無臭で魚が焼ける」というグリルで焼いた生のサンマやイワシは、何か物たりない。グリルは煙こそ出さないが匂いがこもり、後あとまで残る。第一「無煙」で焼いたサンマなどはうまいはずがない。
 子どもの頃、天井が高く隙間風が入る田舎の家で、カンカンに熾った七輪で焼いたサンマが何よりのご馳走だった。

 この秋の風のないある日、納戸に転がっていた七輪を庭に持ち出し、古新聞を使って七輪の炭に火をつける。
 近所からの苦情が来ないかを気にしながら団扇でバタバタとあおぐと炭はカッカと赤くなった。

 銀色に光る姿のいいサンマを丸ごと載せる。脂が滴り落ちるとジュ―ジュ―と音を立て、青い煙がもうもうと上がる。焔がちらちらと見える。
 真っ黒に焦げたサンマを大きめな皿に移し醤油をたらす。大根おろしをたっぷり載せる。スダチがあればいうことないのだが。
 まず、はじけそうな腹に箸を突っ込み、はらわたを取り出す。胃や肝臓などの内臓と未消化のプランクトンだろうかペースト状になっている。糸状の赤いものが混じっている。
 口に入れるとレバーのような舌触りとほどよい苦み、濃厚な味だ。骨の周りの脂身もとろける。舌の上にザラザラ感が残るのは何だろう。
 ビタミン、鉄分など栄養分が濃縮されて入っている。海洋汚染で重金属などの有害物質が詰まっているといわれるが、微量だし気にしたらきりがない。
 本体部分は白身の魚みたいで脂がのっているのに淡白な味。醤油とのコラボが絶妙だ。

 今年は不漁で味がいまいちといわれていたが、昔食べた味と変わらなかった。炭火焼きのサンマは贅沢な食べ物になってしまった。

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