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「800字文学館」

正倉院展

内藤 真理子

 毎年、十月の終わりから奈良国立博物館で開催される「正倉院展」を見に行くことにしている。主目的はさておき、東京・奈良間を車で往復し年々衰える体力を維持する。古都の寺院に触れられるという余禄もある。
 目的はそれぞれ違っても正倉院展を見に行く人は大勢いる。昨年までは、前日から奈良に泊まり、開館前から並んだが、待ち時間なしで入っても、途端に展示場は満員になる。壁に沿って展示してあるガラスケースにへばりついても、牛歩の蟹歩き。疲れ果てて一巡し、外に出ると、もう入り口には一時間待ち、二時間待ちの立て看板。奈良もよく考えたものだと思う。夏が終わり、紅葉の季節にはまだ早いこの時期に、芸術の秋を掲げての大集客。土、日、休日を避けて行くのはほとんどが私と同じ毎日が日曜日の年金生活者とおぼしい。
 今年は作戦を変えて午後三時過ぎに行ったら大正解で、ガラガラとまでは行かないがじっくり見る事が出来た。
 今回の入場券の写真は「羊木臈纈屏風」(ひつじきろうけちのびょうぶ)で字の如く羊と木が大きく描かれているろうけつ染めの布を使った屏風である。巻角の羊やデフォルメされた木は、異国情緒溢れているが国産だという。聖武天皇が身近に使っていた品で、縦163.1センチ、横55.9センチと手ごろ、今現在そこにあっても何の違和感も感じない程現代的な模様だった。
 もう一つの目玉が「緑瑠璃十二曲長杯」(みどりるりじゅうにきょくちょうはい)で、緑色のガラスで出来ている十二の襞がある文様の細長い杯だが、こんなに透明感のあるガラスがこの時代にあったのかと驚いた。
 これらの物が、西暦750年代後半に東大寺の大仏に奉納されたものなのだ。
 舞の伎楽面、竪琴(ハープの前身)の他にも、東大寺大仏開眼会当日の煮炊きに使用されたものなど、数多く展示されていた。毎年行く「正倉院展」だが、今年は当会の講演で、日本考古学会会長・奥村英雄氏の「奈良の大仏はどうやって造ったか」で、開眼会の模様も拝聴したので特に心に残った。

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