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「800字文学館」

核兵器の問題

安藤 晃二

 朝鮮戦争の戦局を有利に進めたマッカーサーの北進拡大戦略主張は止められた。マッカーサー戦略を巡り第三次世界大戦への展開が取り沙汰され、核戦争の脅威が語られたのを子供ながら憶えている。爾来世界は米ソの冷戦、核抑止力の時代となり、大国が核戦争の引き金を引く危険性は押さえられた。この間NPT(核不拡散条約1970)が発効、米ソ主導で近年核軍縮も進捗した。

 しかし現在の核軍縮状況は頓挫の観あり、米ソ共核兵器の近代化を見直す。また強権体制にある小国と言われる国々が、その生き残りをかけて核保有国化し、「核」をその地政学的拡大の具にしようとする。冷戦時の合理的核抑止体制がいまや蝕まれている。とりわけ北朝鮮問題が世界平和を脅かす。トランプ氏は、北朝鮮に対し、言わば「劫火と怒り」で対応すると叩き返す。予測不可能の恐喝劇を連日目撃する。

 七月上旬国連において「核兵器禁止条約」提案が採択され122か国が賛成した。近年の米ソにおける核兵器近代化の動き、北朝鮮、パキスタン、イスラエル等による核兵器開発の実情などに反応しコスタリカ、マレーシアより提案された。しかし核保有国全てが反対に回った。従って実効を得る可能性はゼロ、更に、新禁止条約は、国際法として実効を示し、核保有主要五か国の支持を得たNPTの土台を危うくする。新条約案は同盟国をカバーする拡大核抑止力の在り方、いわゆる「核の傘」を国際法上違法と扱う考え方なので、欧州や極東の安全保障に重大な脅威をもたらす。NATO傘下のオランダ、また米国との安保同盟に頼る日本もこの理由から反対した。両国とも拡大抑止力なしには極めて脆弱である。

 スェーデンのビルト前首相は言う。提案は、現世界では非現実的で余りにnaivete(世間知らず)だ、核兵器軍縮の過程が複雑化し、核保有国、非保有国間の対立を深める恐れがある。核軍縮はNPTの下で徐々に主要国により戦略的に進め、問題地域での紛争を解決して行くのがベストであろう。

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