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「800字文学館」

デキシーランド

平尾 富男

 100年前の1917年と言えばロシア革命が起きた年。丁度その年に最初のジャズ・レコードがニューヨークで吹き込まれた。従って今年は「ジャズ100年」、正確には「ジャズ・レコード100年」を記念すべき年になる。その時の演奏はニューオーリンズ出身の白人バンド「オリジナル・デキシーランド・ジャズ・バンド」によるものである。
 デキシーランドとは、アメリカ南部の諸州を指す通称、中でもディープ・サウスと云われるミシシッピ川河口に位置するのがルイジアナ州だ。その最大の都市がニューオーリンズで、市内のフレンチ・クオーターと呼ばれる地区は、今でもフランス植民地時代の雰囲気を残している。即興性に富んだ音楽形式のデキシーランド・ジャズの生まれたところ。
 その当時はホット・ジャズとかニューオーリンズ・ジャズと称されていた。より洗練され、未だに進化し続けているモダン・ジャズ以前のクラシック・ジャズに分類されるもので、筆者が学生時代に初めて巡り合ったジャズのスタイルなのだ。
 当初はトランペット或いはコルネット、トロンボーン、クラリネットを中心とした管楽器が、ギターやバンジョー、ドラムス、コントラバス或いはチューバといったリズム・セクションを従えて街を練り歩きながら即興演奏を行った。
『ベイズン・ストリート・ブルース』や『聖者の行進』といったポピュラーな曲が、人気のあった白人トロンボーン奏者のジャック・ティーガーデンや黒人トランペット奏者兼ボーカリストのルイ・アームストロング(サッチモと呼ばれた)が好んで演奏して、ジャズに余り馴染みのなかった人々にも広く愛されるようになる。
 デキシーランド・ジャズが流行らなくなり、モダン・ジャズ全盛の1970年代にニューヨークに駐在した筆者は、担当する南部の販売代理店を巡回訪問する際には、努めてニューオーリンズに立ち寄るようにしたものだ。その街を歩けば懐かしいデキシーランド・ジャズが昼夜を問わず聞こえてくるのだった。

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