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「800字文学館」

連れが通うデイサービス

濱田 優

 緑深い静かな住宅街の中の小さな通所介護施設。隠れ家風のレストランが前身といい、元シェフが調理する本格的な食事が売りである。
 そこに要介護3の連れが週四日通っている。お楽しみはもっぱら美味しいランチで、体操や機能訓練は付け足しだ。
 家から車で十五分ほど。近隣の利用者と一緒に乗用車で送り迎えしてもらう。よくある高齢者送迎用のワゴン車ではなく、はた目「奥様お迎えにあがりました」みたいで快いと連れは見栄を張る。
 定員は十名で、八十代の女性が多く、男性が一人来る日もある。後期高齢者になって程ない連れが一番若く、最高齢は百三歳のお婆さん。その人はすこぶる元気で食欲旺盛。他人の分にもすぐ手を出すから油断ならない、と連れは離れて座る。
 利用者同士の人間関係はおおむね良好といえる。だが、通い出して間もないころ、口煩い婆さんの小言が嫌で辞めたい、と言い出したことがある。施設長に頼んでその人とかち合わないように通所日を変えてもらい、事なきを得た。堪え性がないのだ。
 スタッフは四人、それに体操の先生が定期的に来る。概して今は家族的で居心地はいいようで、連れはそこに通う日を心待ちにしている。あえていえば、運動不足を補う体操や散歩をもっとやってもらいたい。本人にその気がないから難しいと思うが。
 希望者には介護付き入浴サービスもあるので助かる。介護者にとって、朝、相手を送り出すと、それから数時間自分の時間が持てるのが何よりのメリットである。
 翻って思うに、昔毎朝、世話の焼ける夫や子供たちを送り出したあと、連れは同じような解放感に浸って一息ついていたのだろう。〝因果はめぐる糸車〟か。
 施設には時々お試しの見学者が来る。その時は気を遣ったり、狭苦しくなったりで嫌だろうと水を向けると、意外にも連れの反応は違っていた。
 「でも、そういう時は料理が良くなるから歓迎よ」
 ――鋭い洞察。ひょっとすると頭はかなり良いのかもしれない――

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